斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 白布の中央に陣取っている中盆(なかぼん)が賭けの進行役で、その隣に壷振りがいる――ここは賽子博打(さいころばくち)の賭場である。
「では、勝負――!」
 壷振りの中年男が壷をあげた。
「――ッ!」と結果が告げられる。
 歓声が弾け、あるいはため息がしぼりだされた。悲喜こもごもの反応が、熱気の中でくり広げられる。
 ――その座の端に雄彦も混じっていた。賭けそのものは目的でないため、怪しまれない程度に消極的に賭けている。
「――てめぇが景気の悪(わり)い賭け方してっから、俺のツキまで失せちまったんだ!」
 雄彦が並んでいる側の中央のあたりで、ひとりの貧相な顔つきの男が隣の者にいちゃもんをつけた。よほど興奮しているのか、言葉とともに相手の胸を突く。
 胸部を押された相手はやや後ろにのけぞった……、眼が大きく鼻のつくりが小さい女と見まごう面貌の若者だ。その顔からはかなり動揺している心中がうかがえる。荒事に不慣れなのかもしれなかった。
 ――と、喧嘩を売った中年男がその粗末なつくりの顔にいぶかしげな色を浮かべる。そして、ハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。
「てめぇ、女か!?」
 というこの男の言葉に、女はさっと顔を青くする。どうやら、図星のようだ。
(なにゆえ、かような場所に女性が……?)
 ことの成り行きを見守っていた雄彦はそんな疑問を抱く。
 ――先の男は、相手の反応にふいに表情を変えた。……色欲をあらわにする。
「こんなとこに娘御がくるたぁ、感心しねぇなあ」
 猫撫で声で云いながら、男装の女人にじり寄っていった。
 まわりの男たちも止めに入るどころか、期待する様子で視線を向けている。
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