81 / 106
81
しおりを挟む
白布の中央に陣取っている中盆(なかぼん)が賭けの進行役で、その隣に壷振りがいる――ここは賽子博打(さいころばくち)の賭場である。
「では、勝負――!」
壷振りの中年男が壷をあげた。
「――ッ!」と結果が告げられる。
歓声が弾け、あるいはため息がしぼりだされた。悲喜こもごもの反応が、熱気の中でくり広げられる。
――その座の端に雄彦も混じっていた。賭けそのものは目的でないため、怪しまれない程度に消極的に賭けている。
「――てめぇが景気の悪(わり)い賭け方してっから、俺のツキまで失せちまったんだ!」
雄彦が並んでいる側の中央のあたりで、ひとりの貧相な顔つきの男が隣の者にいちゃもんをつけた。よほど興奮しているのか、言葉とともに相手の胸を突く。
胸部を押された相手はやや後ろにのけぞった……、眼が大きく鼻のつくりが小さい女と見まごう面貌の若者だ。その顔からはかなり動揺している心中がうかがえる。荒事に不慣れなのかもしれなかった。
――と、喧嘩を売った中年男がその粗末なつくりの顔にいぶかしげな色を浮かべる。そして、ハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。
「てめぇ、女か!?」
というこの男の言葉に、女はさっと顔を青くする。どうやら、図星のようだ。
(なにゆえ、かような場所に女性が……?)
ことの成り行きを見守っていた雄彦はそんな疑問を抱く。
――先の男は、相手の反応にふいに表情を変えた。……色欲をあらわにする。
「こんなとこに娘御がくるたぁ、感心しねぇなあ」
猫撫で声で云いながら、男装の女人にじり寄っていった。
まわりの男たちも止めに入るどころか、期待する様子で視線を向けている。
「では、勝負――!」
壷振りの中年男が壷をあげた。
「――ッ!」と結果が告げられる。
歓声が弾け、あるいはため息がしぼりだされた。悲喜こもごもの反応が、熱気の中でくり広げられる。
――その座の端に雄彦も混じっていた。賭けそのものは目的でないため、怪しまれない程度に消極的に賭けている。
「――てめぇが景気の悪(わり)い賭け方してっから、俺のツキまで失せちまったんだ!」
雄彦が並んでいる側の中央のあたりで、ひとりの貧相な顔つきの男が隣の者にいちゃもんをつけた。よほど興奮しているのか、言葉とともに相手の胸を突く。
胸部を押された相手はやや後ろにのけぞった……、眼が大きく鼻のつくりが小さい女と見まごう面貌の若者だ。その顔からはかなり動揺している心中がうかがえる。荒事に不慣れなのかもしれなかった。
――と、喧嘩を売った中年男がその粗末なつくりの顔にいぶかしげな色を浮かべる。そして、ハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。
「てめぇ、女か!?」
というこの男の言葉に、女はさっと顔を青くする。どうやら、図星のようだ。
(なにゆえ、かような場所に女性が……?)
ことの成り行きを見守っていた雄彦はそんな疑問を抱く。
――先の男は、相手の反応にふいに表情を変えた。……色欲をあらわにする。
「こんなとこに娘御がくるたぁ、感心しねぇなあ」
猫撫で声で云いながら、男装の女人にじり寄っていった。
まわりの男たちも止めに入るどころか、期待する様子で視線を向けている。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) 密偵斬りの任を人吉の領主である相良(さがら)義陽(よしひ)から命じられている丸目蔵人佐長恵(まるめくらんどのすけながよし)。
彼はある時、特別の命を受けて平戸の地へと向かう。目的は、他の国が南蛮の最新式の兵器を手に入れるのを防ぐこと。弟子にして中国拳法の遣い手の明人、伝林坊頼慶(でんりんぼうらいけい)、偶然蔵人のもとを訪れていた兄弟子の疋田文五郎(ひきたぶんごろう)と共に目指す土地へと旅する一行は、野武士(のぶせり)に襲われ廃墟となった村で夜襲を受ける――
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる