75 / 106
75
しおりを挟む
演目は『暫(しばらく)』――義人・侠客を扱ったもので、悪の親玉が手下とともに服従しない善良な人々の首を斬ろうとするのを義人が止めるといった内容だ――のはずだったが、急遽変更になった。
その演目の題名は『鵺』……雄彦と八重に感謝した村人が、ふたりを称えるために直前になって台帳――脚本を変更したのだ。
――舞台の上では、鵺の仮装をした若い衆のひとりがなかなかの演技力でもって、その獰猛さを演じている。
ほかの若い衆が演じる虎の主も、素人がやっているとは思えない迫真のものだ。
と、拍子木の合図に従って、役者の演技の伴奏――所作音楽がはじまる。三味線、太鼓、笛、鼓が勇壮な雰囲気を演出した。
そこに隈取で顔をふちどった荒事師――雄彦役の若者が現われる。そして見得を切った。それに八重の役の者もつづく。
……はっきりいって、それを舞台の正面、先頭で鑑賞するのはかなり気恥ずかしい。
しかし、真に羞恥心を覚えるのは最後の場面だ。
なんと、鵺退治を終えた雄彦役の役者と八重役の役者が色模様――男女の恋愛を演じはじめた。
一瞬あっけにとられた後、舞台を観ていた雄彦と八重や互いの顔を見やった。
そのせいでかえって、舞台の色模様のことが意識され、二人は顔を真っ赤にする――
その演目の題名は『鵺』……雄彦と八重に感謝した村人が、ふたりを称えるために直前になって台帳――脚本を変更したのだ。
――舞台の上では、鵺の仮装をした若い衆のひとりがなかなかの演技力でもって、その獰猛さを演じている。
ほかの若い衆が演じる虎の主も、素人がやっているとは思えない迫真のものだ。
と、拍子木の合図に従って、役者の演技の伴奏――所作音楽がはじまる。三味線、太鼓、笛、鼓が勇壮な雰囲気を演出した。
そこに隈取で顔をふちどった荒事師――雄彦役の若者が現われる。そして見得を切った。それに八重の役の者もつづく。
……はっきりいって、それを舞台の正面、先頭で鑑賞するのはかなり気恥ずかしい。
しかし、真に羞恥心を覚えるのは最後の場面だ。
なんと、鵺退治を終えた雄彦役の役者と八重役の役者が色模様――男女の恋愛を演じはじめた。
一瞬あっけにとられた後、舞台を観ていた雄彦と八重や互いの顔を見やった。
そのせいでかえって、舞台の色模様のことが意識され、二人は顔を真っ赤にする――
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――
木曽義仲の覇業・私巴は只の側女です。
水源
歴史・時代
平安時代末期の治承・寿永の乱(じしょう・じゅえいのらん)いわゆる源平合戦の時代の巴御前が愛する木曽義仲の覇業を支えるお話です。
最初は地道な準備が続きます。
※このお話は史実をもとにしたフィクション、歴史伝奇小説です。
あやかし吉原 ~幽霊花魁~
菱沼あゆ
歴史・時代
町外れの廃寺で暮らす那津(なつ)は絵を描くのを主な生業としていたが、評判がいいのは除霊の仕事の方だった。
新吉原一の花魁、桧山に『幽霊花魁』を始末してくれと頼まれる那津。
エセ坊主、と那津を呼ぶ同心、小平とともに幽霊花魁の正体を追うがーー。
※小説家になろうに同タイトルの話を置いていますが。
アルファポリス版は、現代編がありません。
水野勝成 居候報恩記
尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。
⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。
⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。
⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/
備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。
→本編は完結、関連の話題を適宜更新。
あやかし退治は出刃包丁で事足りる
小林一咲
歴史・時代
江戸から薩摩へやってきた男・弦之助は、あやかし退治の名人と呼ばれている。しかし、彼が使うのは刀ではなく一振りの出刃包丁。
妖怪に悩む村人たちの依頼を受けた弦之助は、山奥に棲む「山の主」と恐れられる妖怪に挑むことに。
包丁の持ち手に隠された秘密と、彼の独特な退治術が織り成す物語は、ただの怪異譚にとどまらない。
妖怪と人間の間にある境界線に挑む、静かながらも力強い時代小説である。
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
復讐の芽***藤林長門守***
夢人
歴史・時代
歴史小説の好きな私はそう思いながらも一度も歴史小説を書けず来ました。それがある日伊賀市に旅した時服部ではない藤林という忍者が伊賀にいたことを知りました。でも藤林の頭領は実に謎の多い人でした。夢にまで見るようになって私はその謎の多い忍者がなぜなぞに覆われているのか・・・。長門守は伊賀忍者の世界で殺されてしまっていて偽物に入れ替わっていたのだ。そしてその禍の中で長門守は我が息子を命と引き換えに守った。息子は娘として大婆に育てられて18歳になってこの謎に触れることになり、その復讐の芽が膨らむにつれてその夢の芽は育っていきました。ついに父の死の謎を知り茉緒は藤林長門守として忍者の時代を生きることになりました。
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる