斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 となれば、あそこにいるのは、似てはいるが別人ということになる。――かつて父が斬った者が地獄の底からよみがえったのかもしれぬ、という脳裡をかすめた考えが霧消した。
「神妙にしろ、下郎!」
 雄彦は叫びながら、鞘に手をかけ外に飛び出す。賽銭箱を見下ろす位置に立って、対手を鋭く見据えた。
「貴様はッ――!?」
 男がこちらを認め瞠目する。
「お主は、父が斬った男の親類縁者か?」
 対手の言葉からそのことをなかば確信しながら、雄彦は問いかけた。
「――そうだ、貴様の父が斬ったのはわが父よッ。ここであったが百年目、父の敵を討ってくれる!」
 男は眼をらんらんと光らせ、憎々しげな顔をする。
「村人を苦しめ、親子二代に渡って悪事を働く貴様にその資格はない」
 雄彦はかつての父と似たようなせりふを口にした。
「ぬぅ、知ったふうな口をッ」
 と男は歯軋りをし、
「吼助、行け」己が下僕である鵺――に化けた虎に命じた。
(正面からやり合うのは得策ではない――)
 雄彦は、かつて父が虎とやりあったときの動きを思い出しながら瞬時に考える。己の立身流兵法の技で対するべきではない、父の天真正伝香取神道流(てんしんしょうでんかとりしんとうりゅう)の技で応ずるべし――手ほどきは受けていないものの、父とはよく立ち合い稽古をしたため、その技は知らずのうちに身のうちに染み込んでいる。
 ――虎が身をたわめ、跳んだ。銃丸(じゅうがん)のごとき速度で迫る。
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