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「ここであったが因果――この俺様、御蔵兵庫に見つかったのが、天の裁きと思え」
兵庫が自信に満ちた口ぶりでいうや、竹刀袋から木刀を取り出して中段に構えた。それに倣い、渋々という様子で兄が同じく袋をとりのぞき木刀を中段にとる。
その光景に、八重はますます不安をかきたてられた。
確かに木刀は容易に骨を砕き、人の命を絶つ威力を持つ。が、対手は虎だ……真剣をもって対峙しても危険な対手だ。それを木刀で、しかも若輩者が相手取ろうというのだから無謀の極みといえる。
「ひゃはは、勇ましいな。さすがは、二本棒のご子息様だ」
兵庫の言葉に、男は嘲笑でもってこたえた。
「山の民につたわりし畜生使役の技の冴え、そして唐の国からやって来た虎の恐ろしさ、とくと眼に焼きつけるがいい!」
男は得意げに口上を述べ、
「行け、吼丸(ほえまる)」
とふたりにむかって虎をけしかける。
先の先――先に仕掛けたのは兵庫だった。木刀を拝み打ちにふりおろす。
豪腕一閃、それに対し虎は右の前脚をくり出した。衝突、兵庫は力負けをして吹き飛ばされる。
が、その隙に雄彦が動いた。電光と化した木刀の切っ先が、上から虎の頭蓋に叩き込まれる。肉と骨を叩く鈍い音と、猛獣の悲鳴が重なった。一瞬、虎はよろめいて半歩ほど後退した――が、それだけだ。肉を裂かれて少量の血を流しながらも、先にも倍する凶暴な光を双眸にたたえ雄彦をにらむ。
――跳躍、人間とは比べ物にならない俊敏な動きで猛獣は宙に舞った。
辛うじて、兄は横に跳んで虎の牙を逃れることに成功する。
が、着地した虎が地を蹴る速度は想像を越えていた――またたく間に距離を詰め、前脚の一撃が見舞われる。
回避が間に合わず、雄彦は木刀でもって攻撃を受けた。そのまま後ろに弾き飛ばされる。
兵庫が自信に満ちた口ぶりでいうや、竹刀袋から木刀を取り出して中段に構えた。それに倣い、渋々という様子で兄が同じく袋をとりのぞき木刀を中段にとる。
その光景に、八重はますます不安をかきたてられた。
確かに木刀は容易に骨を砕き、人の命を絶つ威力を持つ。が、対手は虎だ……真剣をもって対峙しても危険な対手だ。それを木刀で、しかも若輩者が相手取ろうというのだから無謀の極みといえる。
「ひゃはは、勇ましいな。さすがは、二本棒のご子息様だ」
兵庫の言葉に、男は嘲笑でもってこたえた。
「山の民につたわりし畜生使役の技の冴え、そして唐の国からやって来た虎の恐ろしさ、とくと眼に焼きつけるがいい!」
男は得意げに口上を述べ、
「行け、吼丸(ほえまる)」
とふたりにむかって虎をけしかける。
先の先――先に仕掛けたのは兵庫だった。木刀を拝み打ちにふりおろす。
豪腕一閃、それに対し虎は右の前脚をくり出した。衝突、兵庫は力負けをして吹き飛ばされる。
が、その隙に雄彦が動いた。電光と化した木刀の切っ先が、上から虎の頭蓋に叩き込まれる。肉と骨を叩く鈍い音と、猛獣の悲鳴が重なった。一瞬、虎はよろめいて半歩ほど後退した――が、それだけだ。肉を裂かれて少量の血を流しながらも、先にも倍する凶暴な光を双眸にたたえ雄彦をにらむ。
――跳躍、人間とは比べ物にならない俊敏な動きで猛獣は宙に舞った。
辛うじて、兄は横に跳んで虎の牙を逃れることに成功する。
が、着地した虎が地を蹴る速度は想像を越えていた――またたく間に距離を詰め、前脚の一撃が見舞われる。
回避が間に合わず、雄彦は木刀でもって攻撃を受けた。そのまま後ろに弾き飛ばされる。
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