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……なにやら声をかけあったふたりは、ひとつうなずき合うとあさっての方向に向かって歩き出した。なお、兵庫の手にも同じく竹刀袋が握られている。
兄と朋友は、城下からそう離れていない村、さらにその外れの神社の境内へと消えた。
周囲は鬱蒼とした森に囲まれ、人の眼があまり届かない場所だ。
八重は雄彦に勘付かれないよう気を配りながら、みずからも境内に足を踏み入れる。
神社はこぢんまりとしたものだ。本殿もどうにも粗末な印象をまぬがれ得ない地味な外観になっている。
――兄たちは、本殿の裏手へとまわっていくところだ。
当然、八重もそれを追いかける。
雄彦と兵庫は、なにかを見定めるように周囲に眼を配っていた。
――雄彦がなにやら云いながら、本殿裏手の森の際を指さす。
それを受けて兵庫は眼を向けた。兄が示した“なにか”を視野に収めたのか、表情を輝かせる。まるで小さな子供ような顔つきだ。
兄とともに、森の方へ入っていく。
それを追跡する八重も、先ほどまで彼らが立っていた場所に時機を見計らってたたずむ。
「なに、これ?」
動揺したせいで、町屋の子供と変わらないような言葉づかいになってしまう。
……森の出入り口には、なにか大きな獣のものらしき足跡が残っていた。下草がつぶれている範囲は、猿や猪のものにしては大きい。
熊? と八重の脳裡にその言葉がひらめいた。
けれど、それとも違う気がする。あえて表現するなら、猫のような――そこで、ハッと我に返った。このままでは兄を見失ってしまう!
あわてて、八重は森の中に飛び込んだ。
兄と朋友は、城下からそう離れていない村、さらにその外れの神社の境内へと消えた。
周囲は鬱蒼とした森に囲まれ、人の眼があまり届かない場所だ。
八重は雄彦に勘付かれないよう気を配りながら、みずからも境内に足を踏み入れる。
神社はこぢんまりとしたものだ。本殿もどうにも粗末な印象をまぬがれ得ない地味な外観になっている。
――兄たちは、本殿の裏手へとまわっていくところだ。
当然、八重もそれを追いかける。
雄彦と兵庫は、なにかを見定めるように周囲に眼を配っていた。
――雄彦がなにやら云いながら、本殿裏手の森の際を指さす。
それを受けて兵庫は眼を向けた。兄が示した“なにか”を視野に収めたのか、表情を輝かせる。まるで小さな子供ような顔つきだ。
兄とともに、森の方へ入っていく。
それを追跡する八重も、先ほどまで彼らが立っていた場所に時機を見計らってたたずむ。
「なに、これ?」
動揺したせいで、町屋の子供と変わらないような言葉づかいになってしまう。
……森の出入り口には、なにか大きな獣のものらしき足跡が残っていた。下草がつぶれている範囲は、猿や猪のものにしては大きい。
熊? と八重の脳裡にその言葉がひらめいた。
けれど、それとも違う気がする。あえて表現するなら、猫のような――そこで、ハッと我に返った。このままでは兄を見失ってしまう!
あわてて、八重は森の中に飛び込んだ。
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