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 それからも、ほかの弟子を対手にし、
 ――面、袈裟、逆袈裟などを捉え、次々と勝利を収めていった。
 この歳にして、すでに道場では師範以外に対手になる人間がいなくなっている。
 兄上……――そんな雄彦をみていると、八重は陶然となるのだ。
 強い兄が誇らしく、面を脱いだときの凛々しい横顔には総身が溶けていくような心地がする――

 そして、兄が優れているのは武芸だけではない。学業にも優れた才覚を示していた。
 背筋をぴんと伸ばして端座し、書見台に向かう兄を八重はひそかに障子の隙間からうかがっている。
 透明な水面を思わせる、怜悧な面差しで彼は書籍に眼を落としていた。
 剣術に励むときは違う魅力がまた、そこにはある。
 ……いつからだろうか。
 八重は兄をじっと見つめていると息苦しさをおぼえるようになっていた。
 最初はなにかの病か何かかと思ったものだ。
 だが、そのうちに――自分が眼をそらしていた思いに気づく。
(わたくしは兄上に……でも、妹なのにっ)

 そんなふうに煩悶していたある日、父が勤めを終えて帰宅するなり息子と娘を書院に呼ばわった。
「お前たちを呼んだのはほかでもない――」
 上が十三、下が十の子供がいるとは思えないほど若々しい外面の父が、そう話を切り出したとき、八重は身を凍りつかせる。
(まさか、秘めたるこの思いが……)
 父上に露見してしまったのかもしれない――そんな考えが脳裡にひらめき、心臓がちぢみあがる。
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