斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

５０

「下がれ、不甲斐ない奴輩(やつばら)め！」
　と、突如として威勢のいい声が響いた。
　生き残りの数は五人に満たない――彼らを割って、一人の男が姿をあらわす。
　――乱戦のさなか、いつの間にか姿を消していた名主、敵の頭格(かしら)だ。両の手に筒籠手を装着し、大刀を手に携えていた。なにやら、自信ありげな不敵な笑みを浮かべている。
「よくも、俺の手勢をこんなにも斬ってくれたな」
　笑顔のまま眼を怒らせ、名主は片方の手で周囲に死々累々と横たわる骸を示した。
「天誅が下ったまでだ」
　雄彦は戦いの高揚が溶けた声で言葉を返す。
「はっ、神も仏もあるか」
　莫迦にした声で頭格は吐き捨てた――そして、中段に構えた。その立ち姿は、独特のものがある。身体を幹として、剣を一本の枝のように構える体中剣(たいちゅうけん)、そして足を八の字大きく開いている。
「馬庭念流(まにわねんりゅう)を修めているのか？」
　雄彦もまた、刀を地面と水平なるような独特な構えで応じながらたずねた。
　――馬庭念流、その歴史は古く室町時代中期にまでさかのぼる。江戸時代、上州の地で一郷一村を代表する男子は皆、念流を学んだと云われている。技法としては守りを主体として、敵に勝つより負けぬを重視していた。
「いかにも。よくぞ、看破した」
　言葉面は褒めていても、頭格のその顔は嗤(わら)っていた。
（それほどに自信があるということか――）
　雄彦は対手の態度をそう受け取る。
　その慢心、命取りとなろうぞ――と反撥(はんぱつ)する半面、