斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「何ゆえ、手加減をいたした!?」
 ――ついに怒りを爆発させ、生者の温もりを失いつつある神無月を怒鳴りつけた。
「……くだらぬ生で、あ、あったが、おぬしのような、む、娘に斬られて死ぬのなら、それも、よいと思えた、のだ」
 神無月は顔を青ざめさせながらも、口もとに笑みを浮かべている。
「それがし、は、おぬしの気迫に、負けた、のだ……」
 それを最後に浪人の言葉は途切れた。
 あえぐような息を幾度かもらし、胸と肩を二度にほど持ち上げた。つかの間、全身が痙攣したかと思ったら、ぴくりとも動かなくなる――
(そうか――)
 と八重は得心がいった。
 神無月は最後の最後に、己の武士(もののふ)としての誇りを取り戻したのだ。
 だが、同時に複雑な思いにとらわれる。八重にはその生き様はあいいれない――兄とともに生きるためなら、たとえ武家の娘としての矜持を捨て去っても構わない……今までに感じたことのないほど死を間近に感じた刹那、そんな思いを抱いたのだ。
「か、かんなづきが破れた」「莫迦な――」「ありえねぇ……」
 そこで、やっと神無月の死を認めた山賊たちが騒ぎ出す。
 ――無粋な輩に向かって、八重は手裏剣を投じた。
 眼球や喉首をつらぬかれ、突風に見舞われた麦穂のごとく彼らは倒れる。……その場には、八重以外動く者がいなくなった。

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