斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   四

 ……――ふと、和彦は目を覚ます。下半身に落ちつかない感覚があった。
 厠(かわや)にいくか――尿意をもよおし、掛け具を脇にどかして立ち上がる。
 そばには、童女のようなあどけない顔で眠る八重の姿があった。
「兄上……」
 どんな夢を見ているのか、口を半開きにした幸せそうな顔つきで寝言を口にする。
『兄上、お慕いしております』――脳裏に妹が酔いにまかせて口走ったせりふが思い浮かんだ。
 とたん、雄彦は眉根を寄せて、口を逆への字にした憮然とした顔つきになる。
「まったく――」
 兄として妹を好(す)いてはいるが、懇ろな仲など冗談ではない――と心の中で吐き捨てた。
 だが、その言葉は逆に八重をひとりの女性(にょしょう)として意識してしまったからこそ、反発として生まれたものだ。
 寝間に向かって妹をおぶってきたときは昔を思い出したなつかしく感じたが、ひし、と抱きつかれた上で「八重は、兄上に懸想しているのでございます」などと云われればいやでも八重の中に“女”を見いだしてしまう。
 なにしろ対手は、大藩の姫君を思わせるような美しさを備え、雄彦の身に押しつけられていた胸は両の手には収まりきらぬであろうほどに豊かな娘だ。
 たとえ妹とわかっていても、甘い言葉を耳もとささやかれ、熱っぽい眼差しを向けられれば一瞬くらりと理性が揺らいでしまったとしても無理はない。
 ――雄彦は対手を拒絶するかのごとく、妹の寝顔から視線を引き剥がす。
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