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「お前たち、下がっていろ」
 雄彦は百姓たちに指示し、妹とともに前に出た。
 ――牢人は剣に対して一足分遠間で足を止める。その手には、二本の鎌が握られていた。一本の上部から分銅つきの鎖が伸びている。鎖の長さは、四尺二寸といったところか。
 牢人が立ち止まったのに合わせ、長脇差を抜いた無宿人たちもやや後ろのほうに控えた。どの顔には不倶戴天の敵を前にしたような怒りが浮かんでいる。
「うぬ、ようもやってくれたな」
 牢人が眼光鋭く、それでいて落ちつきのある顔つきで告げた。
「いかにも。それがしが、百姓たちに知恵を授けた」
 悪びれることなく雄彦は堂々と対手を見据える。無論、その手はすでに大刀の柄へと伸びていた。
「何者だ、うぬ?」
 牢人は低い声で問いかける。
「まずは、己が名のってはいかがか?」
 雄彦はそれに皮肉で応じた。
「――無宿召捕(めしとり)、蝮仙蔵(まむしせんぞう)」
 目尻のあたりをぴくりと痙攣させながらも、蝮は名のりをあげる。
「無宿、召捕?」と雄彦は怪訝な顔をした。
「用心棒とはいかにも野暮ったい――ゆえに、このところ、無宿人にくみする兵法者は無宿召捕と名のるようになったのだ」
 蝮はそう云ってくちびるの端を曲げる。
「そう、さような仕儀になっていたか」
 雄彦は、興味深い、とうなずいた。
「それがしはさすらい番太――おぬしらの天敵だ」
 皮肉を込めて言い放つ。
 ――が、それに蝮は笑みを返した。
「ほう、貴様が鬼卒(きそつ)兄弟を追っておる男か」
「鬼卒兄弟?」
 雄彦は対手の言葉に即座に反応し眉をひそめる。
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