斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 そろそろだ――雄彦は、崖の上にふせている村人たちに眼で合図した。
 そう、崖の上には小経と並行するように横並びに村の男衆がうつぶせで“時機”を待っている。男たちの前の地面は草で不自然に盛り上がっていた――下の方からは単なる草むらにしかみえないよう擬装されているのだ。
 ――ついに、件(くだん)の百姓が頂上に達する。刹那、
「今だ!」と雄彦は声を張り上げた。
 一斉に村人たちが立ち上がり、手に木の棒を握る。次の瞬間、男衆は棒を草で隠されていた丸太の下に差し込んだ。
「押せや、押せ!」の雄彦の合図に従い、丸太が崖に向かって押し出される。
 斜面の縁まで達した丸太は、自然と勢いを増して下に転がった。
「と、止まれ!」「うわぁっ!」と足の速い百姓を追っていた無宿人たちからいくつもの悲鳴がもれる。
 が、丸太は情け容赦なくそれらを押し潰した。
 十数人いた無宿人の大半がそれで命を落とす――生き残ったのは、打裂羽織に野袴の回国の武芸者を思わせる壮年の浪人と、数人の無宿人のみだ。崖のふもとにいて難を逃れたのだ。
 浪人が周りの無宿人になにやら告げる。そして、小経ではなく脇の林が広がる斜面へと姿を消した。
(これ以上術計にはまるのを避けたか)
 雄彦は気を引きしめる。少なくとも、対手は目の前の状況に頭に血を昇らせる愚か者ではない。
 そう間を置かずして、名主の屋敷の脇にある林から浪人と無宿人たちが姿を現す――
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