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「しかし、お侍様。草夫(くさお)一家の手勢は多く、腕利きもおります……」
先ほどよりも消極的な声で、遠回りな断りを入れてきた。
「ならば、策を弄するとしよう」
それに対し、雄彦は余裕の笑みを浮かべる。
「策?」と後ろに控えていた田吾作が疑問の声をあげた。
「戦いは奇を以(も)って勝つ、兵法家の孫子も云っておる」
ふり返って、自信に満ちた声で答える――その脳裡には、崖を転がっていった大岩のことが浮かんでいる。あの出来事から、雄彦はひとつの策戦を思いついていた。
● ● ●
――その日の未(み)の刻(午後二時頃)、
「てめぇ、待ちやがれ!」
怒声が村の一角であがった。
村の外れから名主の屋敷のほうに向かって、百姓のひとりが脛を飛ばして駆けてくる。足の速い者を選んで、見張りとしてつかせていたのだ。
その様子を、雄彦と八重の兄妹は名主の屋敷のある崖の上から見守っている。
前々から草夫一家の横暴には耐えかねていたのもあるのだろうが、
「任せてくれ。俺の足は韋駄天にだって負けねぇ!」
とうそぶいた百姓の言葉に嘘はなかった。危なげなく、十間(約十八・一メートル)ほどの距離を無宿人たちとの間にはさみながら、名主の屋敷にぐんぐん近づいてくる。そして、小経にたどり着き駆け上ってくる。
先ほどよりも消極的な声で、遠回りな断りを入れてきた。
「ならば、策を弄するとしよう」
それに対し、雄彦は余裕の笑みを浮かべる。
「策?」と後ろに控えていた田吾作が疑問の声をあげた。
「戦いは奇を以(も)って勝つ、兵法家の孫子も云っておる」
ふり返って、自信に満ちた声で答える――その脳裡には、崖を転がっていった大岩のことが浮かんでいる。あの出来事から、雄彦はひとつの策戦を思いついていた。
● ● ●
――その日の未(み)の刻(午後二時頃)、
「てめぇ、待ちやがれ!」
怒声が村の一角であがった。
村の外れから名主の屋敷のほうに向かって、百姓のひとりが脛を飛ばして駆けてくる。足の速い者を選んで、見張りとしてつかせていたのだ。
その様子を、雄彦と八重の兄妹は名主の屋敷のある崖の上から見守っている。
前々から草夫一家の横暴には耐えかねていたのもあるのだろうが、
「任せてくれ。俺の足は韋駄天にだって負けねぇ!」
とうそぶいた百姓の言葉に嘘はなかった。危なげなく、十間(約十八・一メートル)ほどの距離を無宿人たちとの間にはさみながら、名主の屋敷にぐんぐん近づいてくる。そして、小経にたどり着き駆け上ってくる。
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