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「筒籠手で斬撃を防いだか、戦国乱世にはさような手で軍立場を駆けまわった者もおったというが。面白い」
こちらが袖の下に隠していた筒籠手を衣装の破れ目から目の当たりにし権之助が楽しげな笑みを浮かべた。
が、その顔がすぐにけわしいものに転じる。
「だが、なにゆえに大刀を持参しなかった」
「当家は内証が苦しくてな、用意できなんだ」
宗左衛門の軽口に相手の双眸が殺気に爛と輝いた。
「というのは冗談だ。空拳仕置き人の流儀にしたがい、徒手空拳でもって打ち倒すことで貴様に最大の恥辱を与える」
「恥をさらすのは貴様だ、おれを軽く見たことをあの世で悔いろ」
権之助は怒りを刀身にこめるようにして長剣を構える。腰を低く落とし、両の手を股下にまで落とした。左ひじをのばすことで切っ先を立たせる。
とたん、剣尖が宙を走った。
まるで槍だ。間合いが――辛うじて切先を躱しながら宗左衛門は思う。
直後、権之助は得物を引きもどして横なぎの一閃を送ってきた。
「さすがに忍び働きで持ち歩くことは叶わぬが、ここでの戦いなら存分にふるうことができる」
敵の声が興奮にはずむ。
それに応じる余裕は宗左衛門にはなかった。一瞬のことで斬撃を後ろに退いて避けることなどかなうはずもない、その場に倒れ込むことで間一髪避ける。
最初に相手の得物を目の当たりにしたとき、「あんなものを満足にふるうことができるのか」と疑いを持ったがそれが間違いだと思い知らされた。人間は身体操作を極めれば想像を越えた技を可能にする。
万全を期して先祖伝来の骨董品を引っ張り出してきたが、その用意ではおぼつかないほどのものを敵は隠していた。
立てつづけに襲ってくる刺突や斬撃を躱し、受け流しながらもその衝撃に腕がしびれるのに宗左衛門の表情が歪んだ。よほどの業物なのか、あるいは長大であるためか通常ならひしゃげるあるいは折れることすらある筒籠手との衝突にも長剣はびくともしない。
額に脂汗を浮かせながら、宗左衛門は綱渡りの攻防をつづける。
こちらが袖の下に隠していた筒籠手を衣装の破れ目から目の当たりにし権之助が楽しげな笑みを浮かべた。
が、その顔がすぐにけわしいものに転じる。
「だが、なにゆえに大刀を持参しなかった」
「当家は内証が苦しくてな、用意できなんだ」
宗左衛門の軽口に相手の双眸が殺気に爛と輝いた。
「というのは冗談だ。空拳仕置き人の流儀にしたがい、徒手空拳でもって打ち倒すことで貴様に最大の恥辱を与える」
「恥をさらすのは貴様だ、おれを軽く見たことをあの世で悔いろ」
権之助は怒りを刀身にこめるようにして長剣を構える。腰を低く落とし、両の手を股下にまで落とした。左ひじをのばすことで切っ先を立たせる。
とたん、剣尖が宙を走った。
まるで槍だ。間合いが――辛うじて切先を躱しながら宗左衛門は思う。
直後、権之助は得物を引きもどして横なぎの一閃を送ってきた。
「さすがに忍び働きで持ち歩くことは叶わぬが、ここでの戦いなら存分にふるうことができる」
敵の声が興奮にはずむ。
それに応じる余裕は宗左衛門にはなかった。一瞬のことで斬撃を後ろに退いて避けることなどかなうはずもない、その場に倒れ込むことで間一髪避ける。
最初に相手の得物を目の当たりにしたとき、「あんなものを満足にふるうことができるのか」と疑いを持ったがそれが間違いだと思い知らされた。人間は身体操作を極めれば想像を越えた技を可能にする。
万全を期して先祖伝来の骨董品を引っ張り出してきたが、その用意ではおぼつかないほどのものを敵は隠していた。
立てつづけに襲ってくる刺突や斬撃を躱し、受け流しながらもその衝撃に腕がしびれるのに宗左衛門の表情が歪んだ。よほどの業物なのか、あるいは長大であるためか通常ならひしゃげるあるいは折れることすらある筒籠手との衝突にも長剣はびくともしない。
額に脂汗を浮かせながら、宗左衛門は綱渡りの攻防をつづける。
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