引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「――衛門」
 そんな彼を責めるように再び声が。そう、声が聞こえてきた。
 だからどうしたというのだ。あきのものならばともかく、年を感じさせる男の言葉に応じる気分ではない。
 宗左衛門はなおも無視し、なかば現実から逃避しようとした。
 が、強烈な力が彼の頭蓋からおとがいにかけてを突き抜けるにいたっては無視などできるはずもない。
 とたん、なんともいえないなさけない声が宗左衛門の口からもれた。
 同時に意識が現実に返り視界が開ける。目の前にまなじりを吊り上げた伯父、菊次郎の姿があった。
「なにを呆けておるか」
 金剛力士像が命を持って動き出した、そんな迫力を醸しながら彼は怒鳴る。
「なにがあったか、話さぬか」
「あきが。あきが拐されました」
「なに、拐されただと。相手は何者だ」
「清峰忍群」
 痛みが薄れてくると、宗左衛門の胸をふたたびうつろな気持ちが満たしていく。伯父に問われるままに淡々と答えた。
「これも因果か」
 こちらの返答を聞いた菊次郎は苦々しげな顔つきをする。そして、その表情が次の瞬間、ふたたび憤怒の形相へと変化した。
「して、おぬしはなにをしておる」
「なにをと申されても」
「父の仇でもある相手に妹を拐されて、呆けておるだけか」
 伯父はただ呆然としていることを責める。
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