引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 釣り場は大川の一角、獲物は鰻だ。憂さを晴らすには大物が一番、宗左衛門も叫び出したいような気分にみまわれることがたまにあるがそういうときには釣りで心を鎮めている。
 ただ、当たり前のことを失念していた。
 いつも釣りをするときはひとりだが、当然のことながら今はふたりだ。下草の上にならんで腰をおろしていると、なにも言葉を発さずにいるのが億劫になってくる。
 だが、こたび先に口を開いたのはとわだった。
「宗さんは妹がいてうらやましい」
 その言葉の裏にある“本当の家族がいて”という意はもちろん宗左衛門はくみ取っている。
 だが、それを叱責するような根性は彼にはそなわっていない。
「午下がりまで寝ておったときに木刀で頭をかち割ろうとした妹でもか」
 だから、逃げを打って冗談を口にする。
 ほんとうは他に告げるべきものがあることはわかっていた。それでもおちゃらける自分がなさけない。
「木刀を」「無茶の度合いではおぬしといい勝負だな」
 目を剥く彼女を宗左衛門は揶揄(からか)う。
 逃げている自覚はあった。だが、同時に少しでも元気になってほしいという気持ちもまた本物だ。
「わたしはそんなことしないわ」
「忍び者を通りがかりのそれがしに引き受けさせるのは、木刀で殴りかかる以上の無茶だと存念いたす、拙者は」
「う」
 宗左衛門の指摘に、とわは一瞬口ごもった。
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