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「恥じることはない。そのことに気づけたということは、お前は成長したということだ」
父が立ち上がりながらやさしく告げる。
それでも、はずかしくて父と目が合わせられなかった。そんな宗左衛門を、それ、といって父が抱き上げ己の肩にかつぎあげる。
「これで、さらにお前は星に近づいた。どうだ、眺めは」
「見晴らしが、ようございます。父上」
父の肩の上から目にした星空は、先ほどまでの羞恥心を吹き飛ばしてしまうほどに美しく映った。
「ひとりでは、精々寝転んで立ち上がる、飛び上がる、ということでしか星には近づけぬ。されど、こうやって余人の力を借りれば、長い時間格段に星に近づけるのだ」
「余人の力を借りる」
父のせりふを宗左衛門はくり返す。まだ幼い彼にはその言葉がなんとなくしかわからないが、それでも胸に熱いものを感じた。
「獣とて、群れで行動して合力する。人が人の力を頼らぬでどうする。頼り、頼られる、それが人の営みというものだ」
あかるく言葉を継ぐ父が、当時の宗左衛門にはとてつもない巨躯をほこる巨人のように思える。
「兄上、いい加減になさいませ」
――あきの声で宗左衛門は回想からひきもどされた。
いつの間にか、妹の顔がほぼ真上から見下ろしている。
父が立ち上がりながらやさしく告げる。
それでも、はずかしくて父と目が合わせられなかった。そんな宗左衛門を、それ、といって父が抱き上げ己の肩にかつぎあげる。
「これで、さらにお前は星に近づいた。どうだ、眺めは」
「見晴らしが、ようございます。父上」
父の肩の上から目にした星空は、先ほどまでの羞恥心を吹き飛ばしてしまうほどに美しく映った。
「ひとりでは、精々寝転んで立ち上がる、飛び上がる、ということでしか星には近づけぬ。されど、こうやって余人の力を借りれば、長い時間格段に星に近づけるのだ」
「余人の力を借りる」
父のせりふを宗左衛門はくり返す。まだ幼い彼にはその言葉がなんとなくしかわからないが、それでも胸に熱いものを感じた。
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あかるく言葉を継ぐ父が、当時の宗左衛門にはとてつもない巨躯をほこる巨人のように思える。
「兄上、いい加減になさいませ」
――あきの声で宗左衛門は回想からひきもどされた。
いつの間にか、妹の顔がほぼ真上から見下ろしている。
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