引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「物言いはともかく、卯吉の言葉には一理あるさあ。与助の旦那らしくないさあ」
 今度は卯吉に代わり金次が翻意をうながす。
 が、それはできない。
『お前が先の跡目相続の裏にあった毒殺のことなど嗅ぎ当てねば俺の家族までも不幸をこうむることはなかった』――その言葉が脳裏にひびいていた。
 そして、『少しでも罪の意識を感じるのなら手を引け』という言葉も。
 これらのせりふを発した相手に対し、与助は一言も反論もできなかった。
 事実、その通りだと思っているのだ。
 それにこのまま仕置きをつづけれれば、いずれとわは“彼”とぶつかることになる。
 そんな光景など与助は見たくなかった。
「すまないが、この仕置きはなかったことにする」
 金次からも、卯吉からも目をそらしうつむきがちになりながら彼は告げた。
 元々、空拳仕置き人の稼業は贖罪の思いから始めたのだ。
 その一環で再び過ちを犯す可能性があるのだから、与助に仕置きをつづける決断などできるはずもなかった。

       ● ● ●

 宗左衛門が忍びを捕まえてから数刻後のことになる。
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