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叉一郎、重蔵双方にとって悔しいことだが、間者を警戒せねばならないのだ。
現在、家中の政は重役たちによって握られている。叉一郎の父はお飾りと化していた。
重役たちの非道はそれだけではない。
下屋敷を使って遊里の真似事をしていた。無理やり連れてこられた村娘だけでなく、禄を失いたくなくば、と脅された武家の奥方や娘をも春をひさがされている。これによって柳営に味方をつくり、重役たちは国許の政を欲しいがままにしていた。
自分たちが欲望のままに行動するだけでなく、家中の士の家族に非道を働いている、叉一郎にとって許しがたく、機をうかがわねば奸物に手をくだすこともままならないことが歯がゆい。
「耳にいれたいこととはなんだ、山崎」
「は。実は、上屋敷において幾人もの家中の者が食中りで命を落としたと柳営に届け出があったとの由。奸物どもについておる奴輩でござる」
叉一郎の問いかけに山崎は謹厳実直な態度で応じた。
「そのまま、奸物とその走狗共も食中(あた)りでくたばれば苦労はないのだがな」
「さよう、都合よくはいかぬでしょう」
堅物の山崎は叉一郎の冗談にも異をとなえる。それに叉一郎は肩をそびやかした。
「食中りとは、都合の悪い変死が起きたということであろう」
「何事か出来いたしましたな」
「争いが起き犠牲が出たと見るのが適当であろうな」
「さようでございましょう」
「問題はいずかたの者が重役どもの走狗を殺めたかだ」
「探りをいれておきましょう」
叉一郎の言葉に山崎が首肯する。
叉一郎の側につく者たちも少数ながらも存在した。
いや、重役と彼らにつく一部の者たちが私利私欲のままに行動するせいで、下士を中心にして不満を抱く者は増えていた。特に下屋敷で武家の娘に春をひさがせている件では、当事者の家族を中心に憎悪をつのらせている。
このままでは済まさぬぞ、奸物ども――叉一郎は胸のうちで気合の声をもらした。
現在、家中の政は重役たちによって握られている。叉一郎の父はお飾りと化していた。
重役たちの非道はそれだけではない。
下屋敷を使って遊里の真似事をしていた。無理やり連れてこられた村娘だけでなく、禄を失いたくなくば、と脅された武家の奥方や娘をも春をひさがされている。これによって柳営に味方をつくり、重役たちは国許の政を欲しいがままにしていた。
自分たちが欲望のままに行動するだけでなく、家中の士の家族に非道を働いている、叉一郎にとって許しがたく、機をうかがわねば奸物に手をくだすこともままならないことが歯がゆい。
「耳にいれたいこととはなんだ、山崎」
「は。実は、上屋敷において幾人もの家中の者が食中りで命を落としたと柳営に届け出があったとの由。奸物どもについておる奴輩でござる」
叉一郎の問いかけに山崎は謹厳実直な態度で応じた。
「そのまま、奸物とその走狗共も食中(あた)りでくたばれば苦労はないのだがな」
「さよう、都合よくはいかぬでしょう」
堅物の山崎は叉一郎の冗談にも異をとなえる。それに叉一郎は肩をそびやかした。
「食中りとは、都合の悪い変死が起きたということであろう」
「何事か出来いたしましたな」
「争いが起き犠牲が出たと見るのが適当であろうな」
「さようでございましょう」
「問題はいずかたの者が重役どもの走狗を殺めたかだ」
「探りをいれておきましょう」
叉一郎の言葉に山崎が首肯する。
叉一郎の側につく者たちも少数ながらも存在した。
いや、重役と彼らにつく一部の者たちが私利私欲のままに行動するせいで、下士を中心にして不満を抱く者は増えていた。特に下屋敷で武家の娘に春をひさがせている件では、当事者の家族を中心に憎悪をつのらせている。
このままでは済まさぬぞ、奸物ども――叉一郎は胸のうちで気合の声をもらした。
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