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が、その表情が次の瞬間、こわばることになる。
電光石火の早業で与助が脇差をふりかぶるや投じたのだ。腕のまっすぐな軌道と手離れの早さによって得物の前方回転をおさえた見事な投擲。
だが、その一撃を侍はなんとか受け流した。
手裏剣は削闘剣ともいい、一撃必殺ではなくあくまで負傷によって相手の実力を削ぐことに目的がある。傷を負わせること自体がむずかしいのだ。
しかし、攻撃を防いだことに安堵する時間は相手には与えられない。
縮地、重心操作と巧みな身体操作によって与助は敵へと肉薄していた。迅速な拳打。相手のひじを打つや、血にまみれたほうの手で左腕をとらえる。さらに顎へと一撃。
相手が倒れる前に、脇差を腰元から抜き放ち一閃を送る。
喉を裂かれた侍は悲鳴もあげられずに絶命した。
残心を終えた与助は、ふり返りこちらを見やる。その顔に「しまった」とでもいいたげな色が浮かんだ。そして痛ましげな顔をして近づいてきて告げる。
「見るべきでないものを見せてしまった」
とわは無言で首を左右にふった。兵法家として大事な手の指を失い、なおかつそれでも自分を守るために戦ってくれたのだ。その事実に胸が詰まり、またも言葉が出てこなくなってきている。
「幼いそなたのなぐさめにはならぬかもしれぬが、仇のひとりは討った」
「あ、りがと、う、存じ、まする」
昏い口調で言葉をかさねる与助に、声を詰まらせながらもとわは必死に礼の言葉をつむいだ。
そんな彼女を、与助は脇差を脇に捨てて肩ひざをつくやこちらを抱き寄せる。
電光石火の早業で与助が脇差をふりかぶるや投じたのだ。腕のまっすぐな軌道と手離れの早さによって得物の前方回転をおさえた見事な投擲。
だが、その一撃を侍はなんとか受け流した。
手裏剣は削闘剣ともいい、一撃必殺ではなくあくまで負傷によって相手の実力を削ぐことに目的がある。傷を負わせること自体がむずかしいのだ。
しかし、攻撃を防いだことに安堵する時間は相手には与えられない。
縮地、重心操作と巧みな身体操作によって与助は敵へと肉薄していた。迅速な拳打。相手のひじを打つや、血にまみれたほうの手で左腕をとらえる。さらに顎へと一撃。
相手が倒れる前に、脇差を腰元から抜き放ち一閃を送る。
喉を裂かれた侍は悲鳴もあげられずに絶命した。
残心を終えた与助は、ふり返りこちらを見やる。その顔に「しまった」とでもいいたげな色が浮かんだ。そして痛ましげな顔をして近づいてきて告げる。
「見るべきでないものを見せてしまった」
とわは無言で首を左右にふった。兵法家として大事な手の指を失い、なおかつそれでも自分を守るために戦ってくれたのだ。その事実に胸が詰まり、またも言葉が出てこなくなってきている。
「幼いそなたのなぐさめにはならぬかもしれぬが、仇のひとりは討った」
「あ、りがと、う、存じ、まする」
昏い口調で言葉をかさねる与助に、声を詰まらせながらもとわは必死に礼の言葉をつむいだ。
そんな彼女を、与助は脇差を脇に捨てて肩ひざをつくやこちらを抱き寄せる。
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