引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 琉球出身で手(ていー)の使い手である彼は、長身を生かした遠間で犬たちを圧倒する。非常に心強い。
 しかも、彼の武術の特徴である、“動きのあるものをみずからの足捌きを使って、動きながらとらえる”という部分が畜生相手だといかんなく発揮された。
 歩くようにして後ろ足を踏み出す『踏み足』、前の足を後ろにし引く『引き足』、前後の足を一瞬にして入れ替える『交差』、敵の側面へと回りこむ『転身』これらの体捌きと組み合わせ、吹き抜ける風のごとくとらえどころのない動きをして犬たちを攪乱する。
「どうやら、仇討ちは叶わぬようだぞ」
 犬たちの向こうから、皮肉な声が聞こえた。
 とわが視線を移すと、血刀をさげた浪人と虚無僧姿の者が不穏な空気をにじませながらも向かい合っている。
 未練をどこか感じさせるしぐさでこちらに顔を向けた虚無僧は、いらだたしげにきびすを返した。
 それに、血振り、納刀を済ませて浪人がつづく。
 ――金次がその場の犬のすべてを身動きできなくしたときには彼らは姿を消していた。
「とわ、おまえも傷の処置が必要さあ」
 怒った顔で近づいてくる金次を視界におさめながらも、今度はとわが身体をふらつかせる。
 心配をさせて悪かったとは思っていた。
 だが、それ以上にあきを死なせずに済んだことへの安堵のほうが大きい。
 よかった――そう思いながら、彼女の意識は闇へと落ちていった。

 その日、母は用事があって兄と共に実家のほうに顔を出していた。
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