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痛みが、傷口である腕から発し、脳髄へと突き抜けた。回避の動きが大きくなったせいで隙が生じ、喉元へと跳躍を躱せず腕でもって噛みつきを防御したのだ。
が、それで動きを止めては破滅に身をゆだねることになる。
刹那、あきは額でもって犬の頭部を打ち据えていた。金槌で殴打したかのごとき硬質で重い音が鳴る。
一瞬裡に脳を揺さぶられた畜生は視線が定かでなくなり口を開いて地面に落ちた。
しかし、それで終わったわけではない。
続々と“次”が彼女に襲いかかる。
あきは痛みをこらえながら、拳と足を織り交ぜた打撃で撃退した。
だが、呼吸はいよいよ荒れ、疲労は物理的な重さを感じさせるものとなり、集中力が加速度的に失われていく。
比例して彼女の焦燥はますます大きなものとなっていた。
いよいよ駄目か、そんな思いが脳裏をよぎりはじめてところで、
「待て」
一言、背後から鋭い声が聞こえてくる。
兄上――似ても似つかぬ女人の声だったが、出血で朦朧としつつあったあきが心のなかで呼んだのは兄だった。
五
包囲されている宗左衛門――の妹のあき、その姿を認めたとたん、とわの脳裏から冷静さが消し飛んだ。
連日の宗左衛門との行動は、敵を誘い出すはずの行動だった。
だが、まさかあきが襲われるとは。
兄の代わりに出仕している可能性は、日中に家を空けている双子らしき瓜二つの容貌の妹、日中に外出しないであろう病的にさえ映る肌の白さを持った兄、という構図から確信を持つにはいたっていなかったが直感で見抜いていた。
が、それで動きを止めては破滅に身をゆだねることになる。
刹那、あきは額でもって犬の頭部を打ち据えていた。金槌で殴打したかのごとき硬質で重い音が鳴る。
一瞬裡に脳を揺さぶられた畜生は視線が定かでなくなり口を開いて地面に落ちた。
しかし、それで終わったわけではない。
続々と“次”が彼女に襲いかかる。
あきは痛みをこらえながら、拳と足を織り交ぜた打撃で撃退した。
だが、呼吸はいよいよ荒れ、疲労は物理的な重さを感じさせるものとなり、集中力が加速度的に失われていく。
比例して彼女の焦燥はますます大きなものとなっていた。
いよいよ駄目か、そんな思いが脳裏をよぎりはじめてところで、
「待て」
一言、背後から鋭い声が聞こえてくる。
兄上――似ても似つかぬ女人の声だったが、出血で朦朧としつつあったあきが心のなかで呼んだのは兄だった。
五
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連日の宗左衛門との行動は、敵を誘い出すはずの行動だった。
だが、まさかあきが襲われるとは。
兄の代わりに出仕している可能性は、日中に家を空けている双子らしき瓜二つの容貌の妹、日中に外出しないであろう病的にさえ映る肌の白さを持った兄、という構図から確信を持つにはいたっていなかったが直感で見抜いていた。
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