56 / 163
56
しおりを挟む
だが、そんな彼女の胸中に肩すかしを喰らわすように、そこに第三者が姿を現す。
虚無僧の現われた方向からひとりの浪人らしき侍が歩いてきたのだ。
しかも、
「頭の言いつけを破る気か、兼松。捕えて、色々と吐かさねばならぬであろう」
と獣遁使いを制止するような声をかけた。
だが、そのせりふの内容からしてあきらかに敵の仲間かそれに近い立ち位置の人間だ。
次にどういう行動に出るか油断がならない、そう考えあきは警戒をとかずにふたりの動向を見守る。
長身が極度の猫背のせいで中背ぐらいに見え、苦渋を感じているような顔つきをした浪人は近くにいた犬が威嚇するのを鬱陶しげに見やった。整った顔立ちをしているのだが、表情のせいでそれが台なしになっている。
「兄を殺されて、仇を黙って見過ごせるか」
「仇がいずかたにいるかもわからず放浪するよりはましであろう」
獣遁使いが声をあらげ、それに浪人は面倒くさそうに応じた。
「ふん、それはこなたが役立たずだからだろう」
「なに」
だが、前者の嘲笑に対し、浪人の総身にまとう気だるい気配が消し飛んだ。代わりに後者が放出したのは凄絶な剣気だった。
「貴様の口をふさげば、頭にことが露見することはあるまい。仇を犬どもに食いつくさせればおれの仇討ちは誰にも知られぬ」
「痴れ者が」
「金剛鈷、こやつもそやつもどちらも逃がさずに殺させろ」
流れで浪人はとりあえずは敵ではなくなり、獣遁使いは己の犬を通じて余の畜生たちへと命令を伝達する。
虚無僧の現われた方向からひとりの浪人らしき侍が歩いてきたのだ。
しかも、
「頭の言いつけを破る気か、兼松。捕えて、色々と吐かさねばならぬであろう」
と獣遁使いを制止するような声をかけた。
だが、そのせりふの内容からしてあきらかに敵の仲間かそれに近い立ち位置の人間だ。
次にどういう行動に出るか油断がならない、そう考えあきは警戒をとかずにふたりの動向を見守る。
長身が極度の猫背のせいで中背ぐらいに見え、苦渋を感じているような顔つきをした浪人は近くにいた犬が威嚇するのを鬱陶しげに見やった。整った顔立ちをしているのだが、表情のせいでそれが台なしになっている。
「兄を殺されて、仇を黙って見過ごせるか」
「仇がいずかたにいるかもわからず放浪するよりはましであろう」
獣遁使いが声をあらげ、それに浪人は面倒くさそうに応じた。
「ふん、それはこなたが役立たずだからだろう」
「なに」
だが、前者の嘲笑に対し、浪人の総身にまとう気だるい気配が消し飛んだ。代わりに後者が放出したのは凄絶な剣気だった。
「貴様の口をふさげば、頭にことが露見することはあるまい。仇を犬どもに食いつくさせればおれの仇討ちは誰にも知られぬ」
「痴れ者が」
「金剛鈷、こやつもそやつもどちらも逃がさずに殺させろ」
流れで浪人はとりあえずは敵ではなくなり、獣遁使いは己の犬を通じて余の畜生たちへと命令を伝達する。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる