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「内藤様、手前にはささやかな礼しかできませぬが、召し上がってくだされ」
与助は真摯な口調でいって、こちらに蕎麦の器と箸をさしだす。
そんな態度をとる相手に「命を救った礼が蕎麦か」ともいえず宗左衛門は反射的に器を受け取った。そもそも、忍びたちと剣を交えたのもほんとうに成り行きで、別段それで謝礼を手に入れようとも考えていなかったから実際のところ金銭へのこだわりもない。
「美味い」一口、すすってみたところで自然とそんな言葉が宗左衛門の口からもれていた。
「でしょう。父上が工夫して“つなぎ”に麦の粉を使って完成させた味なの」
それでこんなに美味くなのものなのか、と宗左衛門は素直に感心する。
のち、寛延年間に屋台の蕎麦が急増することになるが、その最大の要因は実はつなぎとして小麦をもちいるようになったことだ。製麺の作業も楽になり、かつ味が劇的に向上したために流行ったのだ。
それを、与助は慧眼によって流行する以前に独自に編み出したということになる。
「もう一杯、いかがで」「もらおう」
気づくと器が空になっており、うれしげな声で問いかける与助に宗左衛門は大きくうなずいた。
二杯目も短時間のうちに片づけたが、さすがに満腹になった。
そんな彼をかたわらで少し誇らしげな顔で見守っていたとわが、ふいに口を開く。
「父上が素晴らしいのは蕎麦打ちの腕前だけじゃないのよ。拳法の業前もすばらしいの」
「拳法の?」
「そう、その技を使って世の極悪非道の侍を仕置きしているの」
とわが急に距離を詰めてささやくように告げた。
唐突な若い娘の接近に緊張して、宗左衛門はただ棒立ちになってその言葉を聞く。
そして一拍の間のあと、剣呑な言葉に気づいて「侍を仕置き」とそのせりふをくり返した。
そんな彼にとわがさらに衝撃をおぼえる事実を告げる。
「わたしたちは、空拳仕置き人。素手で制裁をくだし、侍に最大の恥辱を与えてひそかに罰しているのよ」
与助は真摯な口調でいって、こちらに蕎麦の器と箸をさしだす。
そんな態度をとる相手に「命を救った礼が蕎麦か」ともいえず宗左衛門は反射的に器を受け取った。そもそも、忍びたちと剣を交えたのもほんとうに成り行きで、別段それで謝礼を手に入れようとも考えていなかったから実際のところ金銭へのこだわりもない。
「美味い」一口、すすってみたところで自然とそんな言葉が宗左衛門の口からもれていた。
「でしょう。父上が工夫して“つなぎ”に麦の粉を使って完成させた味なの」
それでこんなに美味くなのものなのか、と宗左衛門は素直に感心する。
のち、寛延年間に屋台の蕎麦が急増することになるが、その最大の要因は実はつなぎとして小麦をもちいるようになったことだ。製麺の作業も楽になり、かつ味が劇的に向上したために流行ったのだ。
それを、与助は慧眼によって流行する以前に独自に編み出したということになる。
「もう一杯、いかがで」「もらおう」
気づくと器が空になっており、うれしげな声で問いかける与助に宗左衛門は大きくうなずいた。
二杯目も短時間のうちに片づけたが、さすがに満腹になった。
そんな彼をかたわらで少し誇らしげな顔で見守っていたとわが、ふいに口を開く。
「父上が素晴らしいのは蕎麦打ちの腕前だけじゃないのよ。拳法の業前もすばらしいの」
「拳法の?」
「そう、その技を使って世の極悪非道の侍を仕置きしているの」
とわが急に距離を詰めてささやくように告げた。
唐突な若い娘の接近に緊張して、宗左衛門はただ棒立ちになってその言葉を聞く。
そして一拍の間のあと、剣呑な言葉に気づいて「侍を仕置き」とそのせりふをくり返した。
そんな彼にとわがさらに衝撃をおぼえる事実を告げる。
「わたしたちは、空拳仕置き人。素手で制裁をくだし、侍に最大の恥辱を与えてひそかに罰しているのよ」
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