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だが、思い出そうとすると霧のごとく回想の手のひらをすり抜ける。
容易にはつかめそうにない、そう悟った瞬間、彼はどこで見たのか把握することを放棄した。
まあ、よい。捕え、そのことも含めて吐かせればよかろうて――権之助は左側の肩、後ろからのぞく刀の柄をつかんで抜き放った。忍刀、ではなく戦闘力を重視して打刀を携帯している。
上段霞、刃を上に向け、剣尖をまっすぐ前に突き出して頭上に近い位置で大刀(たち)をとる構えとなった。霞は古流に多用される構えだ。
刹那、権之助は意識のすべてを殺意へと変換し収束、若造に向かって放つ。
剣気を受け、相手の顔が強張るのがはっきりとわかった。
場数を踏んでおらぬな――頭の片隅で彼は嗤(わら)う。
だが、身体は目の前の戦いに集中していた。じょじょに、じょじょに相手へと距離を詰めていく。
近づくごとに若造の緊張が高まっていた。当然、四肢も強張っている。これでは兵法で一番重要な脱力ができず、すばやく動けない。修羅場をくぐれば相手の剣気に順応することもできるだろうが、今どきの侍にそんな下地があるはずもなかった。
相手が刀を構えていればこちらの大刀の剣尖と切先がふれる距離にまで肉薄する。
とたん、権之助はあっけなく後方に退(ひ)いた。
容易にはつかめそうにない、そう悟った瞬間、彼はどこで見たのか把握することを放棄した。
まあ、よい。捕え、そのことも含めて吐かせればよかろうて――権之助は左側の肩、後ろからのぞく刀の柄をつかんで抜き放った。忍刀、ではなく戦闘力を重視して打刀を携帯している。
上段霞、刃を上に向け、剣尖をまっすぐ前に突き出して頭上に近い位置で大刀(たち)をとる構えとなった。霞は古流に多用される構えだ。
刹那、権之助は意識のすべてを殺意へと変換し収束、若造に向かって放つ。
剣気を受け、相手の顔が強張るのがはっきりとわかった。
場数を踏んでおらぬな――頭の片隅で彼は嗤(わら)う。
だが、身体は目の前の戦いに集中していた。じょじょに、じょじょに相手へと距離を詰めていく。
近づくごとに若造の緊張が高まっていた。当然、四肢も強張っている。これでは兵法で一番重要な脱力ができず、すばやく動けない。修羅場をくぐれば相手の剣気に順応することもできるだろうが、今どきの侍にそんな下地があるはずもなかった。
相手が刀を構えていればこちらの大刀の剣尖と切先がふれる距離にまで肉薄する。
とたん、権之助はあっけなく後方に退(ひ)いた。
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