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 そんなことがあった翌日、俺は従兄の住処(すみか)を訪れていた。
「うぬ、さようなせりふを吐いて恥ずかしゅうないのか」
 小体な屋敷の一室、ふたりきりの状況で家の当主である従兄が顔面を真っ赤にして低い声を出した。
 俺は対照的に静かな口調で応じる。「さようにございますな」
 だが、相手が立ち上がりかけているのに応じてみずからも腰を半ばあげていた。相手の表情、ではなく“体”が剣を抜くと告げているのだ。それが兵法で鍛え上げた目付け、動きを読む技法で見抜けていた。
「そこに直れ、痴(し)れ者が。手打ちにしてくれる」「お断りする」
 頑として受け入れるつもりない、その意を込めて告げる。
 刹那、従兄は近くに置いていた大刀を拾い上げた。むろん、俺も右に同じ行動をとる。いや、相手より得物を掴み上げるのは早かった。
 それでも斬りつけたはあちらが先という形を作りたい、立場もあるが修めた流儀の新陰流の理合にしたがって相手が剣が抜くまで斬りつけない。真正面から銀光が来た瞬間、こちらも青眼に構えて肉薄する。
 幻影のごとくすり抜けた。俺が。少なくとも、従兄の目にはそう映ったはずだ。
 刹那、大刀を八相にとるや、相手の得物の横っ面を叩いた。甲高く硬質な悲鳴があがる。死を覚悟したのか従兄の体が束の間硬直した。武士が互いに差し料を抜けばどちらかが命を失う、そういう価値観に生きるが故だ。
「わしを愚弄しおって」
 手加減され“生かされた”その事実に従兄は声をふるわせる。
「そんな了見はありませんが、元より武士が剣技で負けた上、言を弄することが許されるのですか?」
 その一言で相手は顔を赤黒くしながらも口を閉ざした。
 俺は辞去を告げその場を去る。「されば、これにて」
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