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切支丹は僧門の者との衝突が絶えずそれもかなり物騒な事態にいたることもある。なにが起きたにしても教会堂に門徒がつどっている状況で「一大事」だと叫びながら現われるのは問題がある、在昌は息子をいさめようと口を開こうとした。
他方、そばにいるカブラルは息子のほうを「息子も息子だ」とばかりの目で見ている。
「若様が、ドン・セバスチャン様が近習に命じ町屋の寺を破壊させたとのことです」
こちらがなにか告げるより早く息子は必死の顔つきでまくし立てた。
在昌は声を失う。そんなことをすれば僧門の反発は必死だ。ましてや大友宗麟の正室、奈多夫人は神官の娘ということもあって豊後一といっていいほど切支丹を嫌っている。いや憎んでいる。いや、憎しみ抜いているといっていい。奈多夫人の耳にこの一件がとどけばこれを口実としてふたたび切支丹排斥に彼女は動くだろう。
血の気を引かせる彼の耳にその場にそぐわない、こらえきれないという調子のかすかな笑い声がとどいた。
在昌は唖然となりながら声の源、カブラルを見やる。彼の顔にはあきらかに笑みが浮かんでいた。
まさか、と在昌はおののきに近いものを感じる。
他方、そばにいるカブラルは息子のほうを「息子も息子だ」とばかりの目で見ている。
「若様が、ドン・セバスチャン様が近習に命じ町屋の寺を破壊させたとのことです」
こちらがなにか告げるより早く息子は必死の顔つきでまくし立てた。
在昌は声を失う。そんなことをすれば僧門の反発は必死だ。ましてや大友宗麟の正室、奈多夫人は神官の娘ということもあって豊後一といっていいほど切支丹を嫌っている。いや憎んでいる。いや、憎しみ抜いているといっていい。奈多夫人の耳にこの一件がとどけばこれを口実としてふたたび切支丹排斥に彼女は動くだろう。
血の気を引かせる彼の耳にその場にそぐわない、こらえきれないという調子のかすかな笑い声がとどいた。
在昌は唖然となりながら声の源、カブラルを見やる。彼の顔にはあきらかに笑みが浮かんでいた。
まさか、と在昌はおののきに近いものを感じる。
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