切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「さて、いかがして道を開くか」
「それもこちにひとつ考えがございます」
「まことか、それは」
 毛利の夜襲から大友宗麟を守った一件は聞いているはずだが、それでもおどろきは隠せないようすで信長はたずねる。
 むずかしいことではございませぬ、と在昌は応じた。
「状況はまさに四面楚歌、されど光明はございます」
「して、その光明とは」
「上総介様が置かれておられる状況は、故事と違い敵の数は膨大であっても、相手方が一つの勢力ではないことにございます」
 在昌の返答に信長は早くも理解の色を瞳にやどす。
「中小の勢力が協力し巨大な勢力に当たるには欠かせぬものが三つありまする。ひとつは主導する者がおるかどうか。ふたつ目は協力する者たちが同じ方向を向いて共同で動けるかどうか。三つ目は眼目を同じにしているかどうか」
「余に敵する武田信玄入道が主導する可能性もなきにしもあらずではあるが、朝倉の屋形は名家の矜持ゆえにこれは受け入れられぬであろうな」
「さらに、朝倉の御屋形様は煮えきらぬ御仁。好機を前にしても踏み切れぬ蓋然性が高いと思われまする。また、裏で糸を引いているであろう公方様の眼目は柳営の再建、一方、諸大名にとってみればそれは受け入れがたきこと。乱世を争う統領であれば今さら、公方様に唯々諾々としたがいたくはないかと」
「他方、本願寺や一向宗門徒にしてみればおのれらの領地を守れればそれでよい。危険をおかしてまで余を討とうとは思わぬであろうな」
 以上の理由で、二つ目、三つ目の理由も満たされない。
 つまり、立ち上がったものの敵の同盟は勝手ばらばらに動く公算が高いのだ。
 事前に集まって詳細な談合をしたのならまだよいが、「あ、あやつらも動き出したか。されば、我らも」などといった調子で動くのなら、揃わぬ足並みで生じる隙を突いて各個撃破すればいい。
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