切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「手前は、博多の戦陣において貴殿に父を弔っていただいた者」
「父を」
 背中に腕をまわしこちらの歩みを助ける若い僧、その姿をかすむ目で凝視して在昌は記憶をたどる。
 とたん、脳裏にひらめくものがあった。
「あのときの若武者」
「さよう。今は出家の身でございますが、もとは武家でございます」
 驚愕の声をもらす在昌に、僧となったかつての若武者がほほ笑んでみせる。
 決して力強い表情ではないというのに、その顔つきはどこか人を奮い立たせるものがあった。苦難をくぐり抜けた者だけが持ちうる強さがそこには見受けられる。
「お連れの仁が落魄する前にまかり越すことができず、もうしわけありませぬ」
「御前が謝ることでは」
 ない、と在昌がいいかけるのを僧はさえぎって言葉をかさねる。
「親しき者を亡くすのは辛うございます」
 彼のせりふに、触発され在昌の喪失感、罪悪感がますます強まった。
「されど、それを抱えて生きることもまた、残された者のつとめでございます。拙僧はさように存念いたしております」
 だが、心の風向きに変化がおとずれる。
「つとめ」と茫洋とした声で彼はつぶやいた。意識がぼんやりとしともすると途切れてしまいそうだ。在昌と周囲の時の流れがずれてしまったかのごとく、僧の言葉の意味がつむりに届くまでに時間がかかる。
「親しき者との思い出をみずからの血肉とし、自身もまた余の者との交わりのなかで幾ばくかの“なにか”を残す。そういった人々の記憶、心のつながり、継承が輪廻ともうすだと拙僧は得心しておりもうす」
 真剣に語るうちに肩に力が入りけわしくなっていた顔を僧はふいにゆるませた。

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