切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 煙を突き抜けたところで、仁右衛門は敵との刃、手裏剣の応酬をはじめる。迅影と化し、電光の速度で腕を動かし、旋風(つむじ)を巻いて攻撃を躱す。
 気合いは充分だ。脳裏によみがえる在昌の家族との交流が日の本六〇余州を敵にまわしても戦えそうな心持ちにさせている。
 脳裏には在昌の家族たちとの交流がよみがえっている。
 透波となるために育てられた彼には温かな“家族の記憶”などというものはない。以前は、そのことに疑問をおぼえたこともなかった。
 だが、そんな彼に正体を偽っているとはいえ、在昌の妻や子どもたちは家族も同然に接してくれた。なかでも、在昌の末っ子は彼に非常になついていた。幼いころから大小の処理までも手伝っていた成果だ。
 当時は渋面となっていた出来事も、今や大切な思い出となっている。こんなにもかけがえのないものを自分が手に入れられるとは。
 よき心地だ――守るべきもののために戦うのは。いくらでも力がわいてくる、そんな気がする。在昌を返してやるのだ。家族のもとへ。
 こんな場所で死なせて二度と家族と会えない、そんなことは絶対に許さない。
 しかし、そんな彼の意志に反して腕の付け根の痛みは増していき、流れる血が総身に寒気と脱力感をもたらしていた。手傷がひとつ、ふたつと増えてもいる。
 このままでは目的は果たせない。それは動かしがたい事実。
 透波としての立場で判断をくだすのなら、間違いなく在昌を今すぐ見捨てるべきだ。
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