切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 攻撃されている仁右衛門は当然、短時間ではあるが足を止めざるをえなかった。
 さらに、彼は敵に負わされた傷から出血している。流れ出る血はますます増えて集中力を奪って動きをにぶらせ、それが原因で新たな手傷を負わされるといった悪循環を生んでいた。
 圧倒的に不利な状況、それをまねいた原因の大部分は在昌にあるため後ろ暗さで呼吸が止まるほど息苦しさをおぼえた。打開策は――一か八か在昌が弥惣次を仕留めるか、そこまでいかずとも動きを止めて仁右衛門が敵を討つ手助けをすること。
 ならん、在昌の胸中を察して仁右衛門は視線でこちらを制した。その顔は敵との激しい攻防で苦痛にゆがんでいる。遺憾ながら在昌も自覚してはいた。不用意に攻撃に出れば九割以上の割合で自分は弥惣次に討たれる。多少なりとも兵法に通じているためにそれは痛感している。
 弥惣次をふり切れないでいるうちに悪徒たちの足を止めていた煙がうすれ、彼らは怒りに顔をゆがめてこちらへ距離をつめつつあった。じり貧だ。このままいけば悪徒たちまでも相手どらねばならない、どう抗ったところでふたりとも殺される。
 なにか、なにか手立ては――あせる在昌の耳朶を思ってもみなかった言葉が打った。
「友のために死ねるなら重畳、おぬしと過ごした日々楽しかったぞ」

 少し時間はさかのぼる。煙幕を突き抜ける瞬間のことだ。仁右衛門は敏感に鋭い殺気を感知していた。
 在昌の手をはなせば、あるいは無傷で済んだだろう。
 だが、そうしなかった。迷いもなく。
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