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    八

 疾く、ことの次第を上総介殿にお伝えせねば――。
 在昌は仁右衛門に先導されて前久のいる家屋の敷地から表の闇へと滑り出ながらも焦慮のせいで総身にむずがゆさに似た感覚をおぼえていた。
 しかし、しばらく進んだところで、「おったぞ」と夜気を大声がふるわせる。
 この瞬間の怒声は、間近で聞こえた銃声にもひとしい恐怖を在昌に感じさせた。
 近隣の建物の陰から次々と人影がわき出てくる。その動きにあわせて、かすな光明を受けて刀槍が剣呑に光った。
「手はず通りに」仁右衛門が相手から目をそらさずに肩越しに低く鋭く告げるや、門前のときと同じ行動に出る。
 瞬間、煙が視界をおおった。火薬のきなくさいにおいが鼻腔に充満する。
 そのさなかを在昌は全力で突っ切った。頼りは仁右衛門とつながった右手のみだ。
 一瞬で敵の配置を記憶し、その隙間を縫って移動するなどという真似は在昌にできるはずもない。
 在昌を誘導する仁右衛門の手に瞬間的に力がこもる。同時にうめき声がもれた。
 煙と透明な大気の境に達したところで仁右衛門が耐えかねたようにこちらの手をはなす。
 彼の腕の付け根に棒手裏剣が刺さっている、その事実を認めて在昌は眉間にしわを寄せた。
 手裏剣の投擲には特殊なこつがある。そこらの者が見よう見真似で投じたところで、人間に、それも動いている最中(さいちゅう)に突き立たせるのはむずかしい。ましてや相手は歴戦の透波である仁右衛門だ。
 まさか、と数ヶ月前の軍立場との記憶が在昌の脳裏によみがえる。仁右衛門の手裏剣に半頬を砕かれ顔貌を露わにした男。
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