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   七

「かような折にようも来やったものであらしゃる」
 在昌たちを部屋のひとつへと案内した前久は、あきれと感心が入り混じったような声で告げた。それが「こちは賀茂の裔の勘解由小路在昌ともうす者、織田上総介様に縁のある身でございます」という口上を聞いた上での反応だ。
 その面に怯えはみじんも見受けられない。彼の胆力は永禄三年における上杉謙信のもとでの活動、後年の織田信長に従っての働きなど武家を思わせるふるまいを好む気質に由来するものだろう。
「こちに会うために頭(おつむ)を丸められやったのであらしゃいますか」
「さよう。命を購うと思えば安いものでございましょう」
「命を購う、の」
 在昌の返答が面白かったのか、好奇心をのぞかせて問いかけた前久はさらに興が乗った顔をみせる。
「こちの顔を見ることだけが眼目ではあらしゃいますまい」
「さよう、こたびはお頼みしたき儀があり参上つかまつった次第でございます」
 前久の問いかけに在昌は真剣な顔つきで応じた。ここが正念場だ、肚はすわっている。
「その儀とは」
「織田上総介様に合力願いたい」
「織田の屋形の合力を、の。家臣でもない貴君がまた面妖なことをもうすのであらしゃいますね」
 織田信長に縁のある者と名乗られてもやはり奇異に感じるのだろう、前久は軽くまゆをひそめる。
「上総介様には恩義がございますゆえ、こちの独断でお願いもうしあげております」
「ほ、恩義」
 在昌の言葉に前久はあっけにとられた顔つきとなった。
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