切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 毛利の軍勢の周防上陸の報に対し、輝弘麾下の将兵は遁走をはかったという。最後には、豊後に向け脱出しようとした。しかし、すでに彼らを送り届けた警固船が帰国してしまっていた。
 在昌は大友宗麟が助力を惜しまないといったが、心のなかではそんなことはないと理解していた。
 かつて、宗麟は母を同じくする弟晴英(はるひで)が大内家を継ぐことになった。これは両者の母が大内義隆の姉であったためだ。その後、大内家を傀儡とし周防において実質的に権力をにぎっていた陶晴賢が毛利元就に攻め滅ぼされた。
 当然、義長と名乗るようになっていた弟も危機にさらされる。
 だが、宗麟は彼に援軍をさしむけなかった。
 一言でいえばそこまでの気概が大友宗麟にはない。
 単純な兵数などでいえば決して立ち向かえない相手ではなかった。だが激戦は必至、大敗を喫する可能性もおおいにある。そのため彼は「利用されるだけだ」と大内家の継承の話の折に心配し諌めた弟を見殺しにした。
 さような挙に出た御屋形様が血もつながらぬ者のために危険をおかすはずがない――。
 大内輝弘と対面したときからすでにそう思っていたのだ。心のなかでは。
「説得の件、ようやった」
 その後、在昌は満面の笑みで大友宗麟に褒められた。
「こたびの功程度で調子に乗るな陰陽師」
 角隈石宗には敵意を剥き出しにしてののしられた。
 在昌は確かに大友宗麟のおおきな信頼を得ることとなっている。
 しかし、
 これが調略というものの味か――。
 彼の心には拭いきれない後ろめたさが凝(こご)っていた。
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