108 / 167
103
しおりを挟む
「怪我をなされたか」
アルメイダの噂を聞きつけてやって来たかのと思って在昌はたずねた。
凛々しい顔つきをした若い武士は、なにかをこらえるような顔つきでこちらを見すえる。
相手が返事をしないことをいぶかしみ、在昌がなにか次の言葉をかけようかと考えたところで、
「父を丁重に弔っていただいた儀、嫡子として篤くお礼もうしあげまする」
といって、口もとを一文字に引きむすんで深々と頭をさげたのだ。
瞬間的に在昌のうちにこみあげるものがあり喉をつまらせる。
「礼など申さずともよい、当然のことをしたまでだ」
在昌は若武者の肩に手をかけふるえる声で告げた。この者から父を奪ったのだ、こちは――そんな思いを胸に抱きながら。
ただ一方で礼をのべてくれた者の存在は、在昌にとって切支丹の者にとっての聖書の教えほどにも感じられる救済となったのだ。
在昌が耶蘇教への疑心を抱いたのはこのときだけではない。
アルメイダの噂を聞きつけてやって来たかのと思って在昌はたずねた。
凛々しい顔つきをした若い武士は、なにかをこらえるような顔つきでこちらを見すえる。
相手が返事をしないことをいぶかしみ、在昌がなにか次の言葉をかけようかと考えたところで、
「父を丁重に弔っていただいた儀、嫡子として篤くお礼もうしあげまする」
といって、口もとを一文字に引きむすんで深々と頭をさげたのだ。
瞬間的に在昌のうちにこみあげるものがあり喉をつまらせる。
「礼など申さずともよい、当然のことをしたまでだ」
在昌は若武者の肩に手をかけふるえる声で告げた。この者から父を奪ったのだ、こちは――そんな思いを胸に抱きながら。
ただ一方で礼をのべてくれた者の存在は、在昌にとって切支丹の者にとっての聖書の教えほどにも感じられる救済となったのだ。
在昌が耶蘇教への疑心を抱いたのはこのときだけではない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)戦国乱世に生きる安倍晴明の子孫、土御門久脩(つちみかどひさなが)。彼は、経験則の積み重ねとしての尋問術、心理戦の得手――陰陽師として、朝廷の権勢を少しでもとり戻そうと前関白(さきのかんぱく)近衛前久(このえさきひさ)が密かに組織した平安雲居へと誘われた。しかも承諾した訳でもないというのに、前久の確信犯的行動によって九州の島津家と相良(さがら)家と大友家の暗闘に巻き込まれる――
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる