切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 いかが思う。
 ううむ。
 周囲には聞こえない特殊な発音でふたりは言葉を交わした。周囲に完全に溶け込む彼らは、外見に目立ったところはなく、身なりも足軽のそれだ。しかし、実のところその正体はまったく違う。
 彼らが陣取っているのは大友家の重臣たちが集まる一角と反対に位置する、最前列から少しさがった場所だ。重臣に近い場所に陣取ろうとすれば大友家の透波に気取られる懸念がある、という判断だった。
 そんな両者のすぐ近く、前方の士分の者が周囲の者の感想を代表するように言葉を交わす。
「なんというか、心が洗われるような心地がかすかにするの」
「さようだな、公家がなにするものぞと思っておったが、なんのなかなかたいしたものじゃ」
 緊張を強いられる日々のなかで険を帯びていた顔からけわしさが薄れていく。
 しかも、個々人の差はあるものの、あたりの者たちは一様な反応をしめしている。
 これが陰陽道の術――先ほど、声をほとんど出さずに言葉を交わした者の片方は戦慄をおぼえた。
 たしかに鼓笛の音色は人の逆立った気持ちをやわらげる効用がある。されど、それだけにあらず――。
 人は空腹や疲労、眠気によって正常な判断力を減じさせる。さらには“個”の自由を奪われ集団で動くことを強いられているとさらにそれが強まるのだ。陣中という場所はそういう要素が容易にそろいうる場所だ。戦場往来で活動すれば空腹や疲労に襲われるのは当然、そして眠たくもなる。そして、統制をとらねば人は烏合の衆となるため軍兵は上の者の命にしたがうことになるのだ。そうすると、人間は暗示にかかりやすくなる。
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