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「おい、聞いたか」
「なにをだ」
「あれだよ。京の陰陽師が大友の陣中でなにやら怪しげな儀式をおこっているって話だ」
「あれか、安倍晴明の師匠の裔っていうやつが」
「なんでも人魂を降らせて、おれたちの陣を襲わせるとか」
「人魂を降らせるだの襲わせるだの、陰陽師ってやつはおっかねえな」
「まことなのかね、この話は」
「おれが知るかよ」
 両者とも話が終わるころには薄気味が悪いという顔つきになり、大友が陣取っている方角へと視線を向けた。

 他方、厩でも似たようなやり取りが交わされている。
「なんでも、その人魂が降るっていう日取りはあと少しだって話だ」
「なにが陰陽師だ。あいつらに戦がどうこうできる業があるってんなら、京が武家に散々に荒らされることもなかっただろうが」
 ひとりの若い馬丁が怖気をあらわにするが、それを年長の者が笑い飛ばした。
「そうだな。確かにその通りだ」
 そのせりふに勇気づけられ、噂をなかば本気にしていたほうの馬丁もあかるい表情をとりもどす。

 だが、本丸で、虎口で、そこかしこで着実に陰陽師に関する噂はひろまっていった。
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