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 熒惑星(けいわくせい)(火星)は赤い輝きを放ちながら、西から東に順行し、一度逆行をはさんでふたたび順行する。
 歳星(さいせい)(木星)は黄道十二座のなかを毎年、一星座ずつ移動していき十二年で空をひとめぐりし、その明るさゆえ黄道星座を見つけるときのよい目印となった。
 これを頼りとすれば、天文の予測も容易となる――『アルマゲスト』の中身が確かだと確認するたびに在昌のよろこびはふくれあがっていく。
 夜だけでなく、宵の刻や明けの刻限もまた太白星(たいはくせい)(金星)の観測で在昌の心は躍っていた。
 さらにおどろかされたのは、大地が球でありそれが虚空に浮かんでいるという事実だ。世界の中心に人間の住まう球があり、そのまわりを月、辰星(しんせい)(水星)、太白星、熒惑星、歳星の順に並んで円周上に動いているという。
 これは天動説にのっとった考え方で、在昌が知るよしもないがやがてコペルニクスの地動説に取って代わられる運命だ。しかし、この頃は未だに定説は天動説のほうだった。

    六

 サンチェスが仁右衛門の提灯の灯りを人魂に見間違えた日から数日後。毛利家と戦をくり広げる大友家の本陣を、在昌と従者をよそおう仁右衛門はおとずれていた。
 倦んでおるな――在昌は大友家の将兵たちの間を歩きながら彼らを観察する。小姓に先導されながらのことだ。
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