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 弥惣次はそんな彼らに笑みを返しながら、安置すべき仏像もなくただ朽ちていくばかりの須弥壇の裏にまわる。そして、目的の“物”を表に手荒く引きずり出した。それを目の当たりにし修験者たちは唖然となる。
「何事だ」彼らのひとり、大柄な者で猪首の者が戸惑いを露わに一同を代表して疑問を口にした。
「おれなりの三献の儀だ」
 そう告げて、弥惣次は裸に剥いた女性を床の上に転がす。幸の薄そうな地味な顔は無惨な青あざで痛ましいものとなっていた。
 猿ぐつわを噛ませた上に拘束されているため抗うすべをなにひとつ持たず、ただただまなざしで慈悲を乞うのみだ。顔面を鮮血で染めた女人はまつ毛やくちびるを小刻みにふるえさせていた。肌を濡らしているのは、彼女の良人と幼い子どもの血だ。
 目の前でふたりの首を刎ね女人から家族を奪ったのは弥惣次だった。ここに来る途上で“神(デウス)の教えがどうの”と説いてきたのを不愉快に感じ正体を見破られたわけでも邪魔だったわけでもないが戯れに父子を殺めたのだ。
 三献の儀、と疑問の声が修験者のひとりからあがる。一方で、修験者たちのまなざしは女人の豊かな胸乳(むなぢ)や太ももの付け根へとしっかりと吸い寄せられていた。神仏がどうのとどの口でさえずりおる――。
「こやつは、おぬしらの“仇”が奉じるのと同じ神をたてまつる者だ。己の淫行を棚にあげて余人の非を責めたきゃつへの意趣返しの手始めとして、この女子(おなご)になすのに適したことがあろう」
 弥惣次の意味ありげな笑みを目の当たりにし、修験者たちの間に理解の色がひろがっていった。誰ひとりとして、自分たちが結局のところ先ほどまで侮蔑の言葉をぶつけていた相手以上の鬼畜の所業に及ぼうとしていることに気づいていない。いや、わざと目をそらしているのだ。そのほうが都合がよければ人間はあっけなく悪に走る。人なぞその程度のものだ。
 みなで悪事に手を染めれば、もはや後戻りはできぬ――そんな彼らを、弥惣次は笑顔で見守る。彼の笑みに嘲りの色がやどっていることにその時は誰ひとりとして気づかなかった。
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