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「みずからの淫行が御簾中が調伏の儀を頼む仕儀を招いたというのに、あやつめ我らに非があると断じ、国を追いおった」
「命を落とした家中の妻女を側室として囲っておるとも聞くぞ、さような者が余人の非を云々するなど片腹痛いわ」
「しかも、神仏を悪魔と断じてはばからぬ邪教の教えをひろめることを認める始末、あの慮外者に天誅を食らわせてやる」
少し水を向けるだけでこの有様だ、身のうちの憤怒は爆発寸前といっていい。総身から吹き出る激情が激しく燃え上がる炎となっている様が見えるような気がする。
よい、よいぞ――そんな修験者たちを前に弥惣次は口角をつりあげた。余人の負の感情に触れると、頭頂部からつま先まで心地いい感覚につつまれる。ましてや、相手が相手。
弥惣次は神仏を心底信じていない。母を亡くした前後の体験が、この世に確かに存在するもの以外なにも信用できなくさせたのだ。
そして、神仏を奉じる気持ちを持つ者がへどが出るほど嫌いだった。
なにかを“信じる”ことができる、ということはいまだその者の心には希望や救いが存在するということだ。それが弥惣次はうとましい。心の表層の部分では認めていないが妬んでいる。
ために、神仏を信じる者から信仰心を奪い去ること、悲惨な目に合わせることを至福にしていた。本当に心からそれが楽しくてしかたがないのだ。それに比べれば男女の交わりの快感など存在しないも同然だった。
凡人を痛めつけるのも楽しいが、やはりなぶるのなら門徒よ――そう思っているのだ。
「ご一同の怒り、ごもっとも」
ひとしきり不満が飛び交ったところで弥惣次は声を張り上げる。その顔には、ふだんはいっさい見せることのない快活な表情が浮かんでいた。唐突にどうした、修験者からそんなまなざしが向けられた。
「命を落とした家中の妻女を側室として囲っておるとも聞くぞ、さような者が余人の非を云々するなど片腹痛いわ」
「しかも、神仏を悪魔と断じてはばからぬ邪教の教えをひろめることを認める始末、あの慮外者に天誅を食らわせてやる」
少し水を向けるだけでこの有様だ、身のうちの憤怒は爆発寸前といっていい。総身から吹き出る激情が激しく燃え上がる炎となっている様が見えるような気がする。
よい、よいぞ――そんな修験者たちを前に弥惣次は口角をつりあげた。余人の負の感情に触れると、頭頂部からつま先まで心地いい感覚につつまれる。ましてや、相手が相手。
弥惣次は神仏を心底信じていない。母を亡くした前後の体験が、この世に確かに存在するもの以外なにも信用できなくさせたのだ。
そして、神仏を奉じる気持ちを持つ者がへどが出るほど嫌いだった。
なにかを“信じる”ことができる、ということはいまだその者の心には希望や救いが存在するということだ。それが弥惣次はうとましい。心の表層の部分では認めていないが妬んでいる。
ために、神仏を信じる者から信仰心を奪い去ること、悲惨な目に合わせることを至福にしていた。本当に心からそれが楽しくてしかたがないのだ。それに比べれば男女の交わりの快感など存在しないも同然だった。
凡人を痛めつけるのも楽しいが、やはりなぶるのなら門徒よ――そう思っているのだ。
「ご一同の怒り、ごもっとも」
ひとしきり不満が飛び交ったところで弥惣次は声を張り上げる。その顔には、ふだんはいっさい見せることのない快活な表情が浮かんでいた。唐突にどうした、修験者からそんなまなざしが向けられた。
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