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耶蘇会の教えが一部の武士を惹きつけるのにはそういったわけがあると彼は考えるようになっていた。
 僧が相手となるとどうしてもその背後の宗門、利益のつながりを意識せざるをえない。立場のある者とはそういうものだ。世俗のしがらみに縛られる。そして僧というのは出家した、世俗とのつながりを断ったといいながらも一大勢力を形づくっているものだ。
 そういった者を相手に不用意に弱音を吐くのは武門の人間には許されない。
 その点、耶蘇教の人間は新参の宗門のために世俗のしがらみを意識せずに話ができる。
 ただ、話をするだけで救われることもあるというのにそれができぬ人の世とはなんと息苦しいものなのだ――。
 在昌はそんな思いを抱かずにはいられなかった。

      ● ● ●

 人里離れた場所にある蜘蛛の巣にまみれた荒れ寺、天井の破れ目から陽の光が直接そそいでくる本堂につどう無数の人影があった。思い思いの場所に腰をおろす修験者たちと、佇立するひとりの男が向き合っている。
 前者の者たちは一様に怒りを押し殺したような顔つきをし、後者は薄ら笑いを浮かべていた。
「みなの衆、ようつどってくれた」
 後者、一見すると行商人の身なりをした男、弥惣次(やそうじ)があかるい声を出す。ただ、そのまなざしはのがれられない死を間近にした者のように昏く、決して平凡な地下ではありえない。その場に集まった者たち、幾人もの人間の負の感情に触発される形で彼の“本性”の部分が表に立ち現れているのだ。
「さぞや、不遇をかこい怒りをつのらせておるだろう」
「さような言葉で、我らの存念が言いあらわせるか」
 弥惣次のせりふに、噛みつくようにして垢じみてみすぼらしい格好をした修験者のひとりが応じる。そのまなざしは、弥惣次が元凶だといわんばかりの苛烈な光がやどしていた。実際のところは弥惣次にはなんの責任もない、そんな者に当たってしまうほどに彼らの心根は荒んでいるのだ。
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