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「乗っていた船が大きな嵐に遭遇し、沈没していまったときは波にさらわれながら意識を薄れさせていくなかで、つい神(デウス)を疑ってしまったのですよ」
してやったりという調子で伴天連(バテレン)は言葉をかさねた。
「それでなぜ、信仰を失わずに済んだのですか」
「岸に打ち上げられ、ふたたび目を覚ましたとき、空を横切る無数の流星を見たのですよ」
やや勢い込んでたずねる在昌に、サンチェスは少し遠い目になって応じる。
流星、と在昌はやや拍子抜けした声をもらした。
「空を横切る多くの流星が、まるで神(デウス)が試練に耐えたことを祝福しているように思えたのです」
サンチェスの声はやや自嘲のひびきを帯びている。
「もっとも、神がわたしごときのために星を降らすなどということがあるはずもありませんがね」
しかし、あれには心が洗われました、と彼は笑顔を浮かべた。
「そういえば、そろそろ“あの”季節ですね」「そうですね」
サンチェスの言葉に、そういえばと思いながら在昌はうなずく。
流れ星に慰められたという部分はともかく、大きな苦難を目の前の伴天連(バテレン)はくぐり抜けてきてここにいるという事実が彼にとって大きな励ましとなった。
まだ。まだ、やれる――そんな思いを在昌は抱く。
「そういえば」なにかを思い出したようすでサンチェスが言葉を継いだ。が、すぐに「しまった」とでもいいたげな顔つきになる。
してやったりという調子で伴天連(バテレン)は言葉をかさねた。
「それでなぜ、信仰を失わずに済んだのですか」
「岸に打ち上げられ、ふたたび目を覚ましたとき、空を横切る無数の流星を見たのですよ」
やや勢い込んでたずねる在昌に、サンチェスは少し遠い目になって応じる。
流星、と在昌はやや拍子抜けした声をもらした。
「空を横切る多くの流星が、まるで神(デウス)が試練に耐えたことを祝福しているように思えたのです」
サンチェスの声はやや自嘲のひびきを帯びている。
「もっとも、神がわたしごときのために星を降らすなどということがあるはずもありませんがね」
しかし、あれには心が洗われました、と彼は笑顔を浮かべた。
「そういえば、そろそろ“あの”季節ですね」「そうですね」
サンチェスの言葉に、そういえばと思いながら在昌はうなずく。
流れ星に慰められたという部分はともかく、大きな苦難を目の前の伴天連(バテレン)はくぐり抜けてきてここにいるという事実が彼にとって大きな励ましとなった。
まだ。まだ、やれる――そんな思いを在昌は抱く。
「そういえば」なにかを思い出したようすでサンチェスが言葉を継いだ。が、すぐに「しまった」とでもいいたげな顔つきになる。
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