切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「信仰が揺らいだことですか」
 鳴り物を得手とする伴天連(バテレン)、サンチェスが眉間にしわを刻む。在昌と彼は、デウス堂を初めておとずれた折にともに病院で働いたことにより親しい仲となっていた。
 今の言葉は在昌がつい「あなたは信仰が揺らぐほどの難事に襲われたことはございますか」とたずねたためのものだ。礼拝後のちょっとした時間、デウス堂の敷地の片隅でのことだった。近くに人影はなくふたりきりだ。
 ほのや晴丸のお陰で、命を狙ってくる仏門の者の相手をすることへの苦悩はずいぶんとやわらいだ。
 ただ、それでも神経を張りつめさせ、ときに自分を襲ってくる者を撃退していると“澱”のようなものが胸のうちにつもってくるのだ。おそらく、武門の者で神仏やあるいは遊興などに極端に傾倒する者が出るのも似たような事情からだろうと在昌はぼんやりとではあるが、こたびの出来事を経験して理解できるようになっている。
 ただ、発したあとに「しまった」と思ったのも事実だ。
 切支丹の信仰心や神(デウス)を疑うような発言だ、侮辱ととられてもおかしくはない。
 そんなふうに危惧する在昌にサンチェスは慎重に身を寄せてきた。周囲をうかがうような仕草を見せ、
「その質問はほかの方には」
 と問いかけてきた。
「いえ」「なさらないほうが賢明でしょう」
 サンチェスは真剣な顔でうなずく。が、次の瞬間その表情はひょうきんなものに変化した。
「実をいうと、あります」「なんと」
 自分で聞いておきながら在昌は思わず瞠目する。
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