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「お母(たあ)さん」とあどけない声で心細げにいって小さな人影が足を踏み入れてきた。
次男の晴丸(はるまる)、四歳だ。意地っ張りな父、心の強い母のどちらにも似ず甘えん坊で泣き虫の男児だった。
「怖い夢でも見ましたか」
母の問いかけに、小さくうなずきながら歩み寄ってくる。だが、抱きついた相手はほのではなかった。
「っと、いかがした」飛びつくような挙動に虚を突かれた在昌は目を丸くする。
「大事がなくてようございました」
目に涙を浮かべながら、晴丸は在昌の顔を見上げた。父を凶事が襲う夢でも見たのだろう、と在昌はすぐに理解する。
「うむ、そちらのお陰だ」
在昌は満面の笑みを浮かべ、むしょうに最愛しくなって息子の頭を二度三度となでた。
そちら、と晴丸は小首をかしげいぶかしげに問い返す。
「父はな、こちのことを思ってくれるそちらが居るからこそ強くなれるのだ」
在昌の返答に、そうなのですかと晴丸は面映いような顔つきをした。
「夜通し、番に立った甲斐がありましたね」
ほのが在昌の前にまわりこんでいたずらっぽい顔で告げる。そして、「父上は疲れておられます。さ、お休みになってもらいましょう」とそっと晴丸を父から引きはなした。無事を確認したことで満足したのか、晴丸は早くも眠たげな顔になっている。育ち盛りだ、まだまだ寝足りないに決まっている。
そうだの。彼女の言葉に在昌は心からの思いを簡潔に返した。これまでの人生でもっとも力強くうなずく。総身から消え失せていたはずの活力が、四肢の、手足の指先にまで行き渡っていた。
次男の晴丸(はるまる)、四歳だ。意地っ張りな父、心の強い母のどちらにも似ず甘えん坊で泣き虫の男児だった。
「怖い夢でも見ましたか」
母の問いかけに、小さくうなずきながら歩み寄ってくる。だが、抱きついた相手はほのではなかった。
「っと、いかがした」飛びつくような挙動に虚を突かれた在昌は目を丸くする。
「大事がなくてようございました」
目に涙を浮かべながら、晴丸は在昌の顔を見上げた。父を凶事が襲う夢でも見たのだろう、と在昌はすぐに理解する。
「うむ、そちらのお陰だ」
在昌は満面の笑みを浮かべ、むしょうに最愛しくなって息子の頭を二度三度となでた。
そちら、と晴丸は小首をかしげいぶかしげに問い返す。
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在昌の返答に、そうなのですかと晴丸は面映いような顔つきをした。
「夜通し、番に立った甲斐がありましたね」
ほのが在昌の前にまわりこんでいたずらっぽい顔で告げる。そして、「父上は疲れておられます。さ、お休みになってもらいましょう」とそっと晴丸を父から引きはなした。無事を確認したことで満足したのか、晴丸は早くも眠たげな顔になっている。育ち盛りだ、まだまだ寝足りないに決まっている。
そうだの。彼女の言葉に在昌は心からの思いを簡潔に返した。これまでの人生でもっとも力強くうなずく。総身から消え失せていたはずの活力が、四肢の、手足の指先にまで行き渡っていた。
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