切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 闇に刃物がきらめく。剣呑に。それと似た光を得物を手にする地下たちの双眸は帯びている。この世に生を受けてはじめて遭遇する本物の修羅場、これに直面し在昌は茫然自失の態におちいった。
「仏敵め、ぶち殺してやる」
 三人いる男たちのひとりが手に槍をたずさえ、闇に怒声をひびかせる。いうまでもなく農民が戦場に駆り出されることもめずらしくない世のこと、そういった折にふるうための品だろう。
 先ほどの者たちは囮――鎌よりも圧倒的な殺傷力を持つ得物をたずさえていることと、死角を突いてせまってきたことを考え合わせるとそう推測される。在昌の頭の片隅の妙に冷静な部分が勝手に推量した。
「マノエル様」船員の叫びで在昌は我に返る。すでに先頭の男は近間に立っていた。
 背筋を粟立たせながら彼はとっさに抜刀する。物好きな先祖が昇殿の折に帯びていた一振りで、陰陽師という生業には不似合いな実戦向きの拵えの太刀だ。
『槍と相対したときは半身に構え“的”を小さくせよ』
 剣の師の言葉が耳の奥でよみがえる。なかば無意識のうちに在昌は半身正眼となった。目付は相手の両拳につける。相手の手もとは据わっている、在昌は胸のうちでおののきながらつぶやいた。ということは師の教えにしたがえばすぐに突いてくるのは間違いない。
 閃、穂先を切る心持ちで必死に応じた。恐怖が強烈な寒気となって総身にまとわりついている。
 刹那、千段巻のあたりをはらいのけることができた。
 流れで在昌は相手の手もとにつけこんでいる。吐息を感じ取れるのではと錯覚するほどに近くに相手の顔があった。殺気立っていた形相が一瞬で変化し唖然となる。
 後続のふたりも、まさか公家の身なりをした者が機敏な動きを見せるとは思っていなかったらしく足を止めて呆然となっている。もっとも、在昌の身のこなしは練達の士から見ればまだまだ未熟なものだ。
 だが、それ以上に兵法者として足りないものが在昌にはあった。声に出さずに在昌はうめく。兵法の教え通りに動いたものの、
 き、斬れぬ――。
 そのための覚悟が足りなかった。
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