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性根のすわらぬ者など所詮はこの程度、吉川元春はやや物足りないものを感じたがすぐに思い直す。戦はまだまだこれから――大友家家中の綺羅星のごとき将士がこれからの戦いでは待っているのだ。それを考えると楽しみでしかたがない。
それからまもまく、三岳城はあっけなく攻め落とされた。
● ● ●
黄昏のなか、景色が、器物が、膨大な量の返り血を浴びたように赤く染まる、傷を負った士卒が行き交う姿や、筵にくるまれて死体が転がるせいかそんな印象を在昌は受けた。死穢などおそれていては外を歩けないほどに死がありふれている。
「もうすまでもないが、毛利の奴輩が攻めてきたために大友の将士は戦に謀殺されており、拙者もくたびれておる」
顔を合わせるなり、決して友好的とはいえない口上が在昌に対しのべられた。発言の主(ぬし)は
老獪な面構えの大友家重臣・吉岡三河守宗歓(そうかん)だ。
「三河守様のご采配、水際立ったものと聞き及んでおりまする」
「世辞をもうすでない、戦のなんたるかも知らぬ陰陽師が」
少しでも相手の態度を軟化させようと発した言葉だが、宗歓はかえって機嫌を悪くする。嘘であってほしいが、その顔つきはこちらの発言のいっさいに耳を貸すつもりがないように見受けられた。
いったい、何ゆえ――在昌は眉間にしわを寄せたくなるのをこらえる。そんな顔をすればますます宗歓が敵愾心を見せるのは目に見えていた。
それからまもまく、三岳城はあっけなく攻め落とされた。
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黄昏のなか、景色が、器物が、膨大な量の返り血を浴びたように赤く染まる、傷を負った士卒が行き交う姿や、筵にくるまれて死体が転がるせいかそんな印象を在昌は受けた。死穢などおそれていては外を歩けないほどに死がありふれている。
「もうすまでもないが、毛利の奴輩が攻めてきたために大友の将士は戦に謀殺されており、拙者もくたびれておる」
顔を合わせるなり、決して友好的とはいえない口上が在昌に対しのべられた。発言の主(ぬし)は
老獪な面構えの大友家重臣・吉岡三河守宗歓(そうかん)だ。
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「世辞をもうすでない、戦のなんたるかも知らぬ陰陽師が」
少しでも相手の態度を軟化させようと発した言葉だが、宗歓はかえって機嫌を悪くする。嘘であってほしいが、その顔つきはこちらの発言のいっさいに耳を貸すつもりがないように見受けられた。
いったい、何ゆえ――在昌は眉間にしわを寄せたくなるのをこらえる。そんな顔をすればますます宗歓が敵愾心を見せるのは目に見えていた。
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