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   三

 ふたたび、鎮西の地を踏むこととなったか――戦を間近にし改めて、吉川元春は感慨深い思いを抱いた。
 毛利と大友家は以前、合戦へとおよんでいた。周防、長門と豊前、筑前はきわめて近い位置にある。そこに一大勢力が存在するとなれば。生き残るためにも雌雄を決しなければならない、それは戦国乱世においては自明の理だ。こうして戦は始まり永禄三年には毛利氏が鎮西上陸を果たした。以後、激戦をくり広げ、永禄七年に将軍足利義輝の仲介を受ける形で両者は和睦した。
 その後、永禄十一年には毛利家は二万五千におよぶ大軍を四国の伊予に出陣させる。厳島合戦とそれにつづく防長経略で河野氏麾下の来島村上氏に助けてもらった恩義があったためだ。これを見殺しにすれば家中や協力関係にある武家の歓心を失うため兵を派遣せざるをえなかった。
 そういう事情もあるため、
 毛利が鎮西に大軍をつかわすのは先のことであろう――。
 大友家家中ではそういう見方が強かった。
 が、毛利家は伊予に出征していた軍勢の主力が任を終えて安芸へ凱旋すると、約二ヵ月後には鎮西へと将兵を派遣した。毛利と通じ大友家に反旗を翻した立花鑑載が後詰を乞うたために援軍八千余りを送ったのだが時すでに遅かった。豊前企救郡の三岳(みつがたけ)城主・長野弘勝が大友の大攻勢の噂に恐れをなして降伏してしまい、大友軍が大挙して立花城を攻囲したのだ。その結果として立花城は落城寸前となり、これを救う必要があったのだ。
 関門海峡を渡った毛利の軍勢はまず叛将が拠る三岳城を怒涛の勢いで攻撃した。数万におよぶ毛利の軍兵に囲まれた一土豪の城などあっけないものだ。 
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