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なにか良くないことが起こったに違いない、と予感し在昌は眉間にしわを寄せる。
失礼いたしまする、と気の急いた口調で告げ小姓が主の許しを得て戸を開けた。
「ご注進にござる」
「何事が出来いたした」
「毛利の軍兵が本国を発ち、鎮西を目指して進軍を開始したとのよし」
衝撃的な報告を緊張で顔をこわばらせた小姓は口にした。
その日の夜、在昌は豪農の屋敷の一室で信長につかえる透波である仁右衛門と顔を突き合わせていた。仁衛門ははふだん在昌の従者ということで行動しているが、大友家の陣立て訪問に当たっては七方出で行商人に化けて戦況などの仔細について聞きまわり忍び働きをしていた。
「して、いかがであった」在昌は待ちきれない思いでたずねる。
「いやはや、毛利は本気で大友家の所領を奪う存念だ」
童を思わせる笑みを浮かべて仁右衛門は応じた。これはなにもこたびだけのことではなく、いかなるときも彼はこんな態度を崩さない。京で在昌に危機を報せたときですらかような表情を浮かべていたのだ。
「本気、とは」
「毛利方の軍兵の数は四万ともいい、屋形である毛利陸奥守みずからも長府に本陣を敷き総大将として指揮をとっておるとか」
陸奥守当人が。在昌は慄然となってつぶやく。
大友家にとってはまさに未曾有の危機だ。今までの、土豪をそそのかして大友宗麟の力を削ごうとしてきた動きとこたびのそれはあきらかに一線を画している。生半可なことでは退けられないだろう。
されど、こたびの一件こちにとっては好機――功を立てれば大友家で成り上がる端緒ともなりうる。
失礼いたしまする、と気の急いた口調で告げ小姓が主の許しを得て戸を開けた。
「ご注進にござる」
「何事が出来いたした」
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衝撃的な報告を緊張で顔をこわばらせた小姓は口にした。
その日の夜、在昌は豪農の屋敷の一室で信長につかえる透波である仁右衛門と顔を突き合わせていた。仁衛門ははふだん在昌の従者ということで行動しているが、大友家の陣立て訪問に当たっては七方出で行商人に化けて戦況などの仔細について聞きまわり忍び働きをしていた。
「して、いかがであった」在昌は待ちきれない思いでたずねる。
「いやはや、毛利は本気で大友家の所領を奪う存念だ」
童を思わせる笑みを浮かべて仁右衛門は応じた。これはなにもこたびだけのことではなく、いかなるときも彼はこんな態度を崩さない。京で在昌に危機を報せたときですらかような表情を浮かべていたのだ。
「本気、とは」
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大友家にとってはまさに未曾有の危機だ。今までの、土豪をそそのかして大友宗麟の力を削ごうとしてきた動きとこたびのそれはあきらかに一線を画している。生半可なことでは退けられないだろう。
されど、こたびの一件こちにとっては好機――功を立てれば大友家で成り上がる端緒ともなりうる。
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