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 自然と足を止めていた彼の視線の先、店の主が子どもを殴りつけたのだ。ようすからすると命まではとりそうにないが、手足をへし折るぐらいのことはしそうだった。
 それを認識したところで彼は別段、義侠心に駆られたりはしない。凪いだ水面(みなも)と変わらぬ、彼の心持ちはそんなものだ。
 が、それでも。それでも、みずすましが水面(すいめん)で動いた程度の“小波(さざなみ)”が心に起こった。
 彼は店の主と距離を詰める。淡々とした足取りであくまで自然に。
 だが、さすがに手のとどく距離に男が近づけば主も注意を向けないはずはない。なんだ、なにか文句があるのか――そんな顔つきでこちらを見やる。
 電光の速度で男の腕が動いた。ふところに滑り込んだかと思うと店の主の、胸骨下のくぼみへと走る。次の瞬間、相手は命を失った。消えかけのろうそくの火を吹き消すよりもあっけなく。
 心臓を下から縦方向に棒手裏剣でつらぬかれたのだ。
 相手が倒れる前に男は相手をかかえ、店の内、壁へとよりかからせた。
 一瞬、怪訝な目を向ける者もいたが、外からは死角になってまさか白昼堂々人が殺されたとはわからない。
 ただひとりを除いては。
 すなわち、
「小僧」
 彼はかたわらで瞠目している男児へと声をかけた。恐怖のせいか細い笛の音のごとき息を彼はもらす。
「侍が国を切り取るのが是で、お前が物を盗むのがなぜ“否”なのか、承知しておるか」
 唐突な質問に子どもの顔から恐怖がうすれいぶかしげな色が浮かんだ。
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