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肩をそびやかす男の視線の先、白昼の通りには老若男女の姿があり活気に満ちている。
府内ほどにではないにしろここもまた栄えていた。さすがは商いに力を注ぐ大友家のお膝元だ。だが、そんな光景を前に男の胸にきざすのは、灰燼に帰した様はさぞ爽快であろうという思いだ。
愉悦を顔にあらわし人の注意をひかないようにするのに苦労する。それほどに焼け落ちた建物の数々や転がる膨大な数の骸という様には心躍らされるものがあった。
が、そんな彼の気分に水をさすように怒声が近くからあがる。
「こら、小僧。銭(あし)も払わずに済まそうなんざ太(ふて)えことしやがる」
小体な店(たな)、その主が店先でうす汚れた子どもの首根っこをつかまえたのだ。
なるほど、男児の手には魚の干物がにぎられている。体で隠すようにして持っているが背後から少し角度を変えれば丸見えだ。
盗み――子どもの所業をきっかけに男の脳裏にひとつの記憶がよみがえる。
まだ彼が十歳にすらなっていなかった頃の話だ。
彼は京に住んでいた。といっても公家でもその家に仕える身分でもない。
遊び女である母とともに暮らしていたのだ。
府内ほどにではないにしろここもまた栄えていた。さすがは商いに力を注ぐ大友家のお膝元だ。だが、そんな光景を前に男の胸にきざすのは、灰燼に帰した様はさぞ爽快であろうという思いだ。
愉悦を顔にあらわし人の注意をひかないようにするのに苦労する。それほどに焼け落ちた建物の数々や転がる膨大な数の骸という様には心躍らされるものがあった。
が、そんな彼の気分に水をさすように怒声が近くからあがる。
「こら、小僧。銭(あし)も払わずに済まそうなんざ太(ふて)えことしやがる」
小体な店(たな)、その主が店先でうす汚れた子どもの首根っこをつかまえたのだ。
なるほど、男児の手には魚の干物がにぎられている。体で隠すようにして持っているが背後から少し角度を変えれば丸見えだ。
盗み――子どもの所業をきっかけに男の脳裏にひとつの記憶がよみがえる。
まだ彼が十歳にすらなっていなかった頃の話だ。
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