47 / 167
47
しおりを挟む
最初はそのことに怒りを見せた武士だが、
「毛利の御屋形様は貴殿らに対しおおいに同情しておられる」
「毛利家は貴殿らを高く買い、他姓衆(たしょうしゅう)の御仁らになしうる限りの合力をいたす所存でござる」
などという言葉を聞いて、その矛先を大友宗麟と同紋衆(どうもんしゅう)へと向けていた。
大友家家中においては、大友一族、譜代家臣らを同紋衆と称し大友家の家紋の使用を許し、外様である他姓衆へ区別していた。いわば、家臣間に歴然とした“差”が存在するのだ。
他姓衆として不満を抱く者はひとりやふたりではない。そんな彼らのもとを毛利にしたがう透波がおとずれ、寝返るように説いてまわっているのだ。
と、透波の双眸が細まる。平凡な容貌のなか、陰惨な冥府に直結しているかのようにひどく昏いまなざしが異彩を放っていた。そんな彼の意識は眼前の武士ではなく、床下へと向けられていた。
銀光一閃、彼の腕が電光の速度で右手に置かれていた忍刀に向かい得物を引き抜きふるう。武士を守る小姓が反応する暇もなかった。
確かな手応えに透波は笑みを浮かべる。が、攻撃はそれだけでは終わらない。二度、三度と“床下へ”疾風(はやて)の速度の刺突をくれた。
そう、彼が得物を向けたのは床下に忍んで会話を盗み聞きしていた者だ。
「まさか」武士がこちらの行動の意味を遅まきながら理解したようすでたずねる。
「毛利の御屋形様は貴殿らに対しおおいに同情しておられる」
「毛利家は貴殿らを高く買い、他姓衆(たしょうしゅう)の御仁らになしうる限りの合力をいたす所存でござる」
などという言葉を聞いて、その矛先を大友宗麟と同紋衆(どうもんしゅう)へと向けていた。
大友家家中においては、大友一族、譜代家臣らを同紋衆と称し大友家の家紋の使用を許し、外様である他姓衆へ区別していた。いわば、家臣間に歴然とした“差”が存在するのだ。
他姓衆として不満を抱く者はひとりやふたりではない。そんな彼らのもとを毛利にしたがう透波がおとずれ、寝返るように説いてまわっているのだ。
と、透波の双眸が細まる。平凡な容貌のなか、陰惨な冥府に直結しているかのようにひどく昏いまなざしが異彩を放っていた。そんな彼の意識は眼前の武士ではなく、床下へと向けられていた。
銀光一閃、彼の腕が電光の速度で右手に置かれていた忍刀に向かい得物を引き抜きふるう。武士を守る小姓が反応する暇もなかった。
確かな手応えに透波は笑みを浮かべる。が、攻撃はそれだけでは終わらない。二度、三度と“床下へ”疾風(はやて)の速度の刺突をくれた。
そう、彼が得物を向けたのは床下に忍んで会話を盗み聞きしていた者だ。
「まさか」武士がこちらの行動の意味を遅まきながら理解したようすでたずねる。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)戦国乱世に生きる安倍晴明の子孫、土御門久脩(つちみかどひさなが)。彼は、経験則の積み重ねとしての尋問術、心理戦の得手――陰陽師として、朝廷の権勢を少しでもとり戻そうと前関白(さきのかんぱく)近衛前久(このえさきひさ)が密かに組織した平安雲居へと誘われた。しかも承諾した訳でもないというのに、前久の確信犯的行動によって九州の島津家と相良(さがら)家と大友家の暗闘に巻き込まれる――
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる